59 心配なんだが
「いらっしゃーい。来てくれてありがとね」
部屋についてチャイムを鳴らすとおでこに冷えピタをしてしんどそうな顔をしている少女が出てきた。
パジャマ姿で出てきた七海は顔が赤くて身体もだるそうだ。
「たくさん買ってきてくれたんだね。ありがと。冷蔵庫とか適当に使っていいからね」
「はい、使わさせていただきますね」
そう言って有咲は冷蔵庫に物を詰めていく。
優は七海の腕を肩に回してベッドに連れて行く。
「あんま無理すんなよ。ほら、ベッドで横になってな」
「うん、ありがとう」
七海は布団を被り、すぐに目を閉じた。
それを見て優は立ち去ろうとするが、七海に服の裾を引っ張られてベッドに座るようにトントンされる。
よく分からないがとりあえず座ってみるとすぐに手を握られる。
「今日は来てくれてありがとね。私、お見舞い来てくれるって聞いてからすごく楽しみにしてたんだ」
「そうか。ならよかった。で、体調はどうだ?やっぱりまだ結構しんどいか?」
「うん、まだしんどいかな。だから今日は来てくれてすごく助かるよ」
七海はしんどいながらも笑顔で話している。
優はそんな七海を心配そうな表情で見ている。
それは七海にも分かったらしく、先程よりも元気そうに話してくる。
「大丈夫だよ。ちょっといつもよりしんどかっただけで、別にそんなに心配されるほどのことじゃ無いよ」
優には分かる。
無理して笑っている事が。
無理して声を出している事が。
優の心配な気持ちは更に強くなり、真剣な表情で七海に話しかける。
「ちょっとじゃないだろ。こんなにしんどそうな七海見たことない。だから無理せずにゆっくり休んでくれ。これは俺からのお願いだ」
そう言うと驚いた顔をされる。
そして直後七海は起き上がって近くに座っている優に軽く抱きつく。
「うん、じゃあ…今日は…いっぱい甘えさせて…?」
優は少し驚くが、七海から言われた言葉によって不安な気持ちが解消されたので笑顔で抱き返す。
「ああ、今日だけは好きなだけ甘えていいぞ。でも、今は寝てて欲しいかな」
「うん」
七海は一瞬腕に力を入れて強く抱きついた後、横になって目を瞑った。
「んじゃ、昼飯が出来たら起こすな」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
優は音を鳴らさないように部屋を出て行く。
「あ、お兄さん。七海ちゃん、ちゃんと眠りましたか?」
「ああ、多分ぐっすり眠ってるよ」
心配そうにしていた有咲の表情も明るいものになり、優はホッとする。
「で、今から何する?飯を作るには少し早い気がするが」
「んーそうですね。あ、洗濯物が洗濯機の中ににあるのではないでしょうか。お兄さんは洗濯物を干しておいてくれませんか?私は部屋を軽く掃除しますので」
「ああ、わかった」
有咲の指示通り優は洗濯物を取りに行く。
洗濯機を開けてみると予想通り洗濯物があったのでさてをカゴに入れてベランダに持って行く。
有咲は日頃から親を手伝っているので家事は慣れているのだが、優は不慣れなので戸惑っている。
(…これ…どうやって干したらいいの?)
女性の服は複雑な形をしている物もあって、どうやって干すのが最適かわからない。
(ここは有咲に訊くべきか…いや、それは兄としてどうなんだ…)
ここで無駄に兄のプライドが邪魔をしてきたので黙って1人で続ける。
しばらくしていると1番複雑な洗濯物が出てきた。
(ん…これは…)
女性の胸を守る例のアレだ。
女の子が1人で暮らしているのであって当然だ。
でもこれは流石に無理だと思い、素直に有咲に訊いてみた。
優は有咲の言う通りに干して何とか試練を乗り切ることが出来た。
…プライドはどこかに行ってしまったが。
まぁとりあえず一件落着。
流石お兄ちゃん。1人で家事もできちゃう。
(…たまには手伝お…)




