58 お見舞いをしたいんだが
長かった夏休みは終了し、とうとう本日から学校が始まる。
優と有咲はいつものように支度を済ませ、共に家を出る。
「…あれ?」
先に出て行った有咲が頭の上に疑問符を浮かべている。
何かと思い、優はすぐに外に出て有咲の視線の先に目をやる。
だが、そこにはただの道路しかなかった。
そう、いつも出待ちしている七海の姿がないのだ。
多分いつも優達が家を出る10分前ぐらいから待機しているはずなのに、今日はいない。
(もしかして…1人で登校してる?)
別に普通の生徒が1人で登校するのには何の問題もない。
ただ、七海は見た目が見た目なので、1人で登校させるのは不安しかない。
優はすぐさま七海に連絡を入れてみる。
『今日は1人で登校?』
優連絡を入れると一瞬で既読がつき、すぐに返信が来る。
『いや、今日は体調不良で休むの。ごめんね、連絡してなくて』
想定外の回答が返ってきて、優は1人で登校していない事への安心感と体調不良に対する心配という複雑な感情になる。
隣に居た妹には優が複雑な事を考えている事が丸わかりらしく、不安そうな顔でこちらを見上げてくる。
「お兄さん…もしかして…七海さんの身に何かありました?」
「ああ…七海、体調不良で学校休むってさ」
「そ、そうなんですね…それは心配ですね。今日は学校も昼までですし、放課後買い物した後に七海さんの家にお見舞いに行きませんか?」
「ん、それいいな。よし、じゃあ欲しい物訊いとくな」
「はい!」
優の複雑な感情は無くなり、有咲も安心した様子だ。
そんな有咲の顔を見て安心した後、優は七海に連絡を入れながらゆっくりと歩いて行く。
こうして2人のお見舞い大作戦は始まった。
◇
始業式が終わり、ホームルームを軽く済ませるとすぐに放課後となった。
沢山の生徒が遊びに行く中、優と有咲はすぐに近くのスーパーに向かった。
七海からリクエストがあったものを買いに行く。
まぁ物に対してリクエストがあったわけではないのだが。
どうにも温かいものが食べたいらしく、家に来て調理して欲しいとのこと。
なので2人は食材を探して回る。
有咲の指示を受けながら様々な物を買い物カゴに入れていく。
なぜ有咲の指示を受けているかって?
まぁ…女の子の方が分かることもあるからね。
有咲もなぜ体調が悪いのか見当がついているらしく、テキパキと買い物が進んでいく。
結局優が進んで購入したのは七海が好きそうなスイーツやお菓子のみだった。
他にも買ってやりたい物は沢山あったんだけど…全部止められちゃった。
まるでお菓子を買ってもらいたい子供とそれを何とか阻止する親のように。
というわけで有咲の指示のもと沢山の物を購入し、優が荷物を全部持って七海の家に向かう。
想像より重くて絶望したが、そこは気合いで乗り切る。
優は腕に力を全集中させながら歩く。
その時は目が完全にキマっていたので有咲に滅茶苦茶笑われたが、そんな事に気を使う余裕はなくずっと目がキマった状態で歩いていた。
丁度優の体力が限界を迎える頃に七海の住むマンションに到着した。
有咲が呼び出しのチャイムを鳴らし、七海が出てくるのを待つ。
やはりしんどいのか、時間がかかっている。
2人は心配になりながら待っていると、ようやく七海の声が聞こえてきた。
【いらっしゃーい。入ってきて良いよー】
やはりしんどそうなのでより心配になる。
2人は開けられたドアを潜って七海の部屋に向かった。




