56 むっつりなんだが
「__ということがあって…」
海デートの終盤の出来事を何とか璃々に説明し、現在に至る。
七海は既に恥ずかしさで全身真っ赤で熱があるのではというぐらい身体が熱くなっている。
璃々はどうなっているのかというと…
(え、えぇぇぇ⁉︎七海ちゃん、そんな大胆なことしたのぉぉ⁉︎)
作戦の考案者のくせに本当に実行されていて驚いていた。
流石にそこまでやるとは思っていなかった。
せいぜい胸をちらつかせるぐらいかなと思っていた。
うん、全然想定外。
(純粋だった頃の七海ちゃんはどこへ行っちゃったのぉ…)
七海が純粋だった記憶はないが。
とりあえず…言及してみよう!
璃々の好奇心が勝ち、更に細かいところも訊いてみる。
「えっとその…押し倒された時は…如月くん…どんな顔してたの…?」
七海は思い出す。
今思い出してみると、割と冷静だったような気がする。
(あれ…なんであの状況で冷静なの…?もしかして…慣れてる…とか…?)
七海はとんでもない考えに至ってしまう。
(つまり優くんには彼女がいてその時にいっぱいあんなことやこんなことをしたってこと…?)
七海は妄想し出したら止まらないタイプなので璃々との通話も忘れて妄想を加速させる。
「(でも仕方ないよね私なんて可愛くもないし優しくもないしね。そりゃあれだけカッコよかったら可愛い女の子と付き合ったりするよね…)」
【えーっと…七海ちゃん…?】
気づけば声に出してしまっていたようで、璃々が困惑してしまっている。
七海は慌てて口を押さえて笑顔を取り繕う。
「あはは…えっと…何の話だっけ…?」
【如月くんに押し倒されたっていう…】
「あ、そっか…。あの時の優くん…何だか冷静そうで…まるで慣れているみたいに…」
【あー…】
璃々は気まずそうに目を逸らす。
直後七海のため息が聞こえてきたので璃々は何とか話を変えてみる。
【ほ、他には何か進展とかなかったの?】
「他…?あ…お姫様抱っこ…してもらった…」
【そ、そうなんだ!どうだった?】
「…カッコよかった…よ…?優くんの身体…筋肉が沢山あってすごく硬くて…」
【えーっと…七海ちゃん?おーい】
完全に自分の世界に入ってしまった七海を呼ぶが、答えは返ってこない。
(優くん…まだ鍛えてるんだ…)
優の身体を見てそう思った。
小学生の頃の出来事がトラウマでてっきり身体を動かすのなんて嫌いになっていると思っていた。
だから嬉しかった。
彼がまだ鍛えてくれていて。
七海は少し切なそうな顔でそんな事を考える。
璃々の事を放っておいて。
【…七海ちゃん?】
「あ、ごめん…ちょっと考え事してた」
【え?】
(ん?この場面で考え事ってことはもしかして…そういう事妄想してたの⁉︎)
超人的な璃々の考えにより、謎に七海は誤解されてしまう。
(七海ちゃんって見かけによらず…)
「…璃々ちゃん?なんか変な事考えてない?」
【え゛⁉︎変な事⁉︎考えてないよそんな事⁉︎】
それだけ慌てたら図星という事はバレバレなんだが。
それを察し、七海は呆れたため息をつく。
「璃々ちゃん…見かけによらずえっちなんだね」
【わわわ私は別にえっちじゃないよ⁉︎別に変な事なんて考えてないんだからね⁉︎】
「語尾が変になってるよ」
急なツンデレ口調にツッコミを入れつつ、七海は璃々をむっつり認定する。
【私はむっつりじゃないよぉぉ!】
璃々の叫びは七海の心には響かず、虚しく部屋に響くだけだった。




