52 調子に乗らないで欲しいんだが
「あのね優くん」
「ん?」
テントで10分ほど休んでゴロゴロしていると、突然七海が真剣な表情で話しかけてしたので、優は身構えて聞く。
「私…海で泳ぎたい!」
「ん?…ああ…」
「反応鈍くない?結構決心したつもりだったんだけど」
「別に決心する程の事でもないだろ」
「いーや、とても心の準備が必要な事だよ!」
七海は起き上がった優に近づき、海で泳ぐ事の危険性などを熱弁する。
「__というわけで、海で私が泳ぐのは心の準備が必要だし、君の力も借りないといけないの」
「はぁ…」
2分ぐらいスピーチをされて、何となく分かったような分からなかったようなといった感じである。
というか、気づいたらなんか優の力が必要みたいな話になっている。
七海は泳ぐのが得意というイメージはないので、1人で泳ぐのは危ないというのは分かる。
でも、どう付き添えば良いのかさっぱり分からない。
なので案はないか七海に訊いてみると、手を握っていて欲しいとのこと。
手を握ると泳ぎにくいだろうが、まぁそんなに全力では泳がないだろうし、七海の指示に従う事にする。
「優…くん?ちゃんと握っててね…?」
「ああ、俺が握ってるからそんなに怯えなくても溺れたりしないって」
「で…でもぉ…」
「ほら、バタ足してみ」
「う…うん…」
七海は足を水面でバタバタさせ、前進して行く。
流石にこの程度は出来るようで、すんなり進んで行っている。
「結構上手いじゃん。これなら俺要らないかもな」
「そう?…なら手を離していいよ?」
「え?それ大丈夫か?流石に危ないんじゃ…」
「いや大丈夫!君の折り紙付きならきっと行けるよ!」
(なんか調子に乗っちゃってる…)
優は諦めて手を離す。
そして七海はバタ足をして前に進んで行く。
流石に心配なので着いていくが、これぐらいは出来そう__
「んゔゔゔゔゔ⁉︎」
「言わんこっちゃない…」
10mぐらい進んだ地点で力尽きて溺れそうになってしまう。
それを優はすぐに助けて抱えたまま浅瀬に戻る。
「はぁ…はぁ…ったく、調子に乗るからだぞ」
「はぁ…ご…ごめん…」
息を荒げて地面に手をつけて謝ってくる。
その姿を優は呆れた表情で見下ろす。
「何で調子に乗っちゃうかね…あれだけ危険性を熱弁してたのに」
「ゔ…面目ない…」
優の言葉はしっかり七海の心に刺さり、一瞬身体をビクつかせ、涙目で下を向いている。
それを見て少しやり過ぎたと思い、お詫びも兼ねて何かしてあげようと考える。
七海は疲れて歩けなさそうだし、ここはおぶってテントまで連れて行こうと考えたのだが…
(水着でおんぶはやばくね?)
先日の夏祭りの帰りに七海を背負って帰った時は浴衣を着ていたのにアレの感触が凄かった事を思い出した。
そして今、水着の状態で背負ったらどうなる?
そんなの考えなくても分かる。
という訳でおんぶは断念。
では何にしようか?
身体があまり密着する事なく七海を歩かさせずにテントまで運ぶ方法。
優には候補が1つだけ浮かぶ。
(もうこれしかないか…)
優はその候補の1つを実行する。
「え?どうしたのってちょっ⁉︎」
突然仰向けにされて持ち上げられ、流石に驚きが隠しきれないようだ。
全身を赤くしていて、目も泳ぎまくっている。
そんな七海の反応を見る事なく優は七海をお姫様抱っこしてテントまで抱えて行く。




