50 山ではなかったんだが
「ゔ…ゔぅ…」
「優くん…大丈夫?」
「ああ…何とか…」
ちょっと強めに頭を打ったのでとりあえずテントに避難して七海に看病してもらっている。
「…というか、別にこれはしなくてもいいのでは?」
「いや、これをしないといけないんだよ。夫婦なんだし」
「はぁ…」
現在優は膝枕をされて頭を撫でられている。
まるで親子のように。
そんな事をされると流石に優も恥ずかしいのでやめるように何度も言っているのだが、一向にやめてくれる気配がないのでそろそろ諦めて膝の上でゆっくり過ごす。
じっくりと上の方を見ていると思ったことが一つだけある。
(大きなお山さんがふたつあるー)
視界の半分ぐらいがあるもので埋め尽くされている。
上に山があるなんておかしいはずだ。
(なんだこれ?)
あまり脳が回っていない優はそのあるものに手を伸ばす。
「ひゃっ⁉︎」
「…?」
それに触れた瞬間、女の子の驚いた声が聞こえてきた。
そんな事に触れることなく優はその物体を触り続ける。
(柔らかい…山ではないのか…)
そんなことを考えながらずっと触り続ける。
「あ…♡ちょ…」
七海の息が荒くなっているような。
そこに優は疑問を持ちつつ、その物体の分析を続ける。
(七海の身体か?これ。七海の身体で山みたいで柔らかいもの…)
優は触りながら少しずつ真実に近づく。
が、それよりも先に七海が限界のようだ。
「優くんッ♡やめ…ッ」
「ん…ん⁉︎」
ここでようやく優が気づいた。
自分が触っていたのは七海の胸であることに。
優は慌てて七海の膝から頭を退けて土下座をする。
「本当にごめん!決してそういうつもりではなくて…」
「…」
必死に頭を下げるが、七海から言葉はない。
数秒必死で頭を地面に擦り付けた後、頭を上げて七海の様子を伺う。
「えっと…七海さん?」
両手で胸を押さえて全身を赤くしている。
頭はオーバーヒートしていて、煙のようなものが見える。
優は混乱している七海の肩を軽く叩いてみる。
するとビクッと身体が震え、驚いた顔で声を絞り出している。
「ゆゆゆ優くんが…私の…む…む…むn__」
「本当に申し訳ございません!!」
最後まで言わせずに渾身の土下座を披露する。
さっきまで頭を打って休んでいたのに今回の土下座で悪化させてしまったような気もするが、今はとにかく頭を擦り付けて謝る。
そこから長い沈黙が続き、優の頭が熱くなってきたタイミングで七海が声を出した。
「優…くん…?顔を上げて…?私は大丈夫だから…」
「あ…ああ。でも、本当にごめん」
「いいんだよ。わざとじゃないんでしょ?仕方ないよ」
頭を上げた後もしっかり謝り、許しをもらう。
その後一瞬わざとでもいいみたいな言葉が聞こえてきた気がしたが、多分気のせいだろう。
(…どうしようこの空気…)
何とも言えない空気になり、テントの中には沈黙が訪れる。
優はそれを打ち破るように立ち上がって七海に手を差し出す。
「えっと…なんか食いに行かねぇか?俺ちょっと腹減ってきたし」
「あ…うん、そうだね。行ってみよっか。」
七海は手を取って立ち上がり、そのまま手を離さずに歩く。
「えーっと…手…離さないんですか?」
「うん。夫婦だからね♡」
ちょっと何を言っているかわからないが、お詫びも兼ねて今回はそのままにさせてあげよう。
2人はラブラブ手を繋ぎながら少し離れた屋台に向かった。




