05 修羅場すぎるんだが
「優君一緒に帰ろ?」
入学初日の学校が終わり、クラスはお帰りムードとなっている。
そんな中七海にお誘いを受けたわけだが、実はもう妹と約束をしてしまっている。
「お兄さん、入学してからも毎日一緒に帰りましょうね?」
3日ほど前に言われた言葉。
当然承諾したので、そろそろ教室に来る筈だ。
でも、もし2人が鉢合わせたらどうなるか。
そんなの考えなくてもわかる。
というわけで何とかしようと考える。
(七海と有咲を鉢合わせさせない方法…)
思考をフル回転させる。
だがそれは不可能という結論にしか至らない。
そうやって優があからさまに考え込んでいると、七海に勘づかれてしまった。
「優くん?もしかして…私以外の女と帰ろうとしてるの?」
(あ、ヤベ…)
人を殺せそうなぐらいの殺気をまとっているんだが。
「ねぇ?正直に話して?私達の愛に傷がつかないうちに」
別に愛もクソもないんだけどね。
えーっと。何と返そうか。
(目こわっ⁉︎ガチで何人か殺めてるんじゃない⁉︎)
目に光が微塵もない。
完全に生きている人間の目ではない。
この殺気に完全に怯えてしまった優は正直に話してしまった。
話せば話すほど増す殺気に怯えながら。
「…というわけでして…」
「ふーん。そうなんだ。私以外の女と2人っきりで帰ろうとしてたんだ」
(俺…もう死んじゃうのかな…)
説明を終えた頃にはもう半分死んでいた。
そこで丁度タイミング良く有咲が来たようで、美しく透き通った藍色の目を覗かせている。
それに七海も気付いたらしく、有咲に迫って行く。
「有咲ちゃん?あんまり優くんと私の恋の邪魔をしないでくれない?」
「恋って、お兄さんと七海さんは付き合っていないのでしょう?」
「は?付き合ってるもんっ」
鬼のような形相で有咲を見つめている。
有咲はそれに全く臆することなく対抗する。
「まあ私とお兄さんは愛し合っていますけどね?」
「は?そんなことないでしょう?だって優くんは私のこと好きって言ってたもん⁉︎」
完全にヒートアップしていっている。
なんか暑いな、この教室。
周りの生徒も汗をかいているように見える。
そんな中優は
(ボルシチ食べたいなー)
全く話を聞いていなかった。
というか、聞きたくなかった。
「そう言うならお兄さんに確認してみましょう?」
「そうね、それが1番早いわね」
2人の目線が優に集まる。
(は…え?)
ちょっと巻き込まないで欲しい。
この返答次第では死人が出るのでは?
そのぐらいの空気感である。
その中返答を迫られているわけだが。
「ねぇ?早く答えて?私達は愛し合ってるって」
「お兄さん?七海さんとは何ともなくてただ兄妹で愛し合っていると答えてください?」
「あ……え………」
脳が考えることを諦めた。
気付けば2人との距離が近くなっている。
七海に制服を掴まれて詰められる。
この圧倒的修羅場に優は完全に着いていくことができなくなった。
(あ、やばいフラフラしてきた……これはガチのやt…)
「え…ちょっと優君⁉︎」
「お兄さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
段々声が遠ざかっていく。
次第に視界が暗くなっていく。
そして…目を瞑った。