46 胃袋を掴まれたんだが
「で、次は何をする?」
「えっと…次は…」
映画を見終えて少し休憩した後、有咲に次の予定を尋ねてみる。
有咲は少しの時間考えて優に尋ねる。
「お兄さん、お腹空いてませんか?」
「ん?まぁ空いてるな。というか、もう昼か」
時計を見てみるともう11時30分頃となっていた。
恐らく映画が面白かったから時間が早く感じたのだろう。
優は時計を見た後ソファから腰を上げて有咲に近づく。
「じゃあ…どっか食べに行くか?用意されてないみたいだし」
「いや…その…一緒に作りませんか…?」
「ん?まあいいけど」
エプロンをそれぞれ着用し、有咲は髪を結ぶ。
優はシンプルな黒のエプロンで、有咲はいちご柄の可愛らしいエプロンだ。
(それ、いつのエプロンだよ)
記憶が正しければ中学1年生の頃から使っている気がするんだが。
「じゃ、何作る?…って…何見てんの?」
有咲はある本をじーっと見ている。
覗き込んで見てみると、どうやら奈々のレシピノートのようで、表紙には【好きな人を落とすレシピ!】と書かれている。
(いやなにそれ⁉︎)
有咲はなぜそのノートを見ているのか不明だし、奈々もなぜそのノートを見やすい場所に置いて行った謎だ。
「有咲?今そのノート見る必要なくない?」
「いえ、とても大事です…」
優の話をほとんど聞かずじっくりとノートを見ている。
「よし…これにしましょうか」
数十秒の熟考の末、どうやら作る料理が決まったらしい。
有咲に見せられたページは、ハンバーグの写真が綺麗に貼られていて、作り方や量なども細かく書かれている。
有咲は普段から奈々の手伝いをしているのでレシピノートを見なくてもできるはずなのだが、どうやらこのハンバーグは普通のとは一味違うらしい。
ひき肉の中に細かく切った玉ねぎとにんじんとピーマンを混ぜ、特製ソースはケチャップの中に少しとんかつソースを混ぜるらしい。
(これで好きな人を落とせるのですね…)
有咲は奈々レシピを信じ、作り始める。
優はそれを手伝う形で有咲の隣で作業をする。
1時間ほど調理し、昼食は完成した。
ハンバーグ以外にもご飯と味噌汁にサラダも作った。
ほぼ全部レシピノートに載っていたやつだが。
まあそれはどうでもいい(ことはない)として、お腹が空いているので早く食べよう。
料理を食卓に運び、2人は向かい合って座った。
「「いただきます」」
2人は手を合わせた後、まずはハンバーグの上にソースをかけて食べる。
「ん!うまいなこれ!」
「そうですか?ならよかったです」
笑顔で嬉しそうにルンルンと足を揺らしていることに気づいてるのは言わないでおこう。
そのようにして料理を一瞬で平らげ、優は食器を運ぶ。
その為に立ち上がった時だった。
「あの…お兄さん…?」
「ん?」
有咲が下を向いて話しかけてきた。
直後、何かを期待するような目でこちらを見て口を開いた。
「その…落ちました?」
「…はい?」
「だから…この料理を食べて…落ちましたか…?」
「……?」
何のことかわからず、首を傾げる。
(この料理を食べて…落ちる…?一体何に落ちるんだ…?)
完全に理解していない様子の兄に、有咲は例のレシピノートを持ってきて優に見せる。
そこで優は思い出した。
「あーそういえばそんなノートもあったな」
「で…落ちましたか…?」
「いや、落ちはしないよ。美味しかったけれども」
有咲が露骨にしょんぼりしてしまったので、何とかフォローしてみる。
「まぁ胃袋は掴まれたかもナー」
「本当ですか⁉︎」
「え…?あー…うん…ホントだと思う…」
「(やった!)」
(ありがとうございますお母さん!)
有咲は後ろを向いて小さくガッツポーズし、奈々に感謝したのだった。




