43 絶対に離さない
「ななちゃん!一緒にあそぼ!」
これは小さい頃の話。
綺麗な白い髪に目を奪われるような赤い瞳を持つ、不思議な彼女。
綺麗だなと純粋に思った。
でもどうやら彼女はいじめられているらしい。
当時の俺は見た目の美しさへの嫉妬でいじめられているのかと思っていた。
だが、現実は逆だった。
七海は日本人らしからぬ見た目を周りから嫌悪されていた。
その事を知らず、俺は七海が引っ越す話を聞いた時、相当駄々をこねた。
でも仕事だからと言われ、結局七海は遠くに引っ越して行った。
それから数年経った頃に、七海が引っ越した理由を推測することが出来た。
それが分かってからすぐに親に尋問した。
何度も何度も訊いて、ようやく教えてくれた。
やはり、俺の推測は正しかった。
外れていて欲しかった推測は、当たってしまった。
俺は絶望した。
俺は、七海のことを助けてやれなかった。
気づいてやれなかった。
その事が今も心の傷として深く残っている。
だから今度こそは絶対に守ってやる。
絶対に離さない。
◇
「………」
目が覚めた。
外はまだ暗いが、やや月明かりが眩しい。
(あの夢は…)
あれは紛れもなく優の記憶。
忘れられない、絶対的な記憶。
思い出したくない、後悔まみれの過去。
「ははは…何やってんだ俺は」
夢で過去の事を鮮明に思い出し、罪悪感に駆られる。
七海に寄り添い、七海の愛を受け止めて、七海に降りかかる悪を払わなければならない。
それが自分の使命だと今も思っている。
だが、今はそれができていない。
その事を分かっているからこそ、より自分への嫌悪感が増す。
「もっと…あいつのとこを…」
顔を下げ、深刻な表情で考える。
優は凍りついた自分の心を見つめ直す。
(俺に…七海の好意を受け入れる資格なんて…無いんだな…)
やはり結論はこうなってしまう。
璃々に言われた事も忘れて、優は暗い表情で天井に手を伸ばす。
「誰か…俺の冷え切った心を温めてくれよ…」
少し涙目になりながら心の底の叫びを小さな声で漏らす。
その声が誰かに届く事はないが。
もう寝てしまおう。
考えたくない事を考えるのは、もっと後にしよう。
こうして後回しにして寝ようと横を向いた時だった。
「あ…」
隣には幸せそうな顔で眠っている妹が居た。
そういえば一緒に寝ていたな。
優は左手に伝わってくる暖かさを感じ、少し心が暖かくなるのを感じる。
そこで自然に右手が有咲の頭を撫でる。
「そうだな…お前の事も守ってやらないとな…」
頭を撫でられ、起きていないはずなのにニマニマとしている。
これだけ可愛い妹を、守ってやらねば。
優はそう決心し、右手を頭から話して天井を向く。
そこで隣から少し寝言が聞こえてくる。
「おにぃはん…あいひてます…」
寝言でやや呂律が回っていないが、優には問題なく伝わっている。
それを聞いて優は感じた。
自分は愛されているのだと。
親や妹、七海…は分からないけどこんな自分の事を愛してくれる人達がいる。
その事が分かって、優は少しだけ楽になった。
(何度も妹に助けられる兄なんて…ダサいな…)
心の中で少し笑いながら自分を卑下し、とんでもない寝言を発した有咲に小声で話す。
「ったく…なんて寝言だよ…」
そこで優は有咲を軽く抱きしめて耳元で自分の素直な気持ちを伝える。
「ああ…俺も…愛してる…俺の妹でいてくれて…ありがとう」
有咲の表情が若干緩くなり、それを見て優は軽く笑った。
「よしっ、寝るか」
そこでようやく寝るために目を瞑る。
左手に有咲の柔らかくて小さい手がある。
その手から伝わってくる温もりを感じながら、優は決心する。
(絶対に2人は俺が守る。絶対に離さない)
心の中でそう考えながら、優は深い眠りについた。




