41 疲れたんだが
結局あれから一言も話す事なく七海の家に着いた。
防犯対策が徹底されているのでそこは七海に鍵を借りたりしながら部屋へ向かう。
「お邪魔シマース」
「どうぞ〜」
七海の部屋に入り靴を脱がせ、リビングのソファに座らせる。
既に貼っておいた絆創膏を外し、湿布などを貼ってしっかり処置する。
「これでちょっとは楽になったか?」
「うん、ありがとう」
そう言った直後、優は腰を上げて帰る支度をする。
「じゃ、俺は帰るな」
その時、七海が立ち上がって服の裾を掴んできた。
「えっと…どした?」
「あの…お茶だけでも飲んでいかない?」
七海が少し寂しそうにこちらを見てくるので、拒否する事は出来ず、頭を縦に振る。
「何にする?紅茶でもコーヒーでも」
「じゃあ紅茶で」
「おっけー」
そう言って手早く紅茶を淹れて優の目の前の机に差し出す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
七海も紅茶を飲みながらこちらを見ている。
そんなに見られても困るんだけど。
「…どした?」
「えっと…その…デートの…話なんだけどさ…」
「ああ…」
約束のデートの話をしておきたいらしく、ほっぺを赤くしながら言い出しにくそうにしている。
なのでここは優が切り出す。
「えーっと…とりあえず…どこに行く?」
「あの…その…海…行きたいな」
「海かー……良いな」
「ホント⁉︎じゃあ決まりだね!」
七海が無邪気な笑顔を浮かべ、ルンルンになった。
足でリズムを刻みながら身体を揺らしている。
本当に小学生みたいだ。
そんな七海を子供を見る目で見ながら紅茶を飲む。
なんか美味しくなってる。
そんな事あるんだ。すげぇ。
まさかの発見に驚いていると七海がモジモジしながら話しかけてくる。
「それで…優くんは…どんな水着が好き…?」
「え?……ん〜そうだな〜…」
顎を拳に乗せてじっくりと考える。
(流石に大胆すぎると変態だと思われるしかと言って布面積がデカすぎるのもなぁ…)
優は10秒程じっくりと考えてから七海に結論を言い渡す。
「似合ってれば何でも良いんじゃない⭐︎」
「なるほど…わかった!」
何がわかったのかはわからないが、とりあえずよしとしよう。
それから数分間紅茶を飲みながら2人で談笑し、キリのいいところで話を終わらせて優は帰ろうとする。
が、当然そこで七海に止められる。
「もう帰っちゃうの?お風呂入って行っても良いんだよ?」
「いや、流石にそれはいいよ。今日は疲れたし、早めに帰って早めに寝たいし」
そう言って七海に背を向け、玄関に向かう。
そこで七海がボソボソと「(泊まっていけばいいのに)」とか言っていたが、それには触れないでおく。
「じゃ、また今度」
「うん、またね」
2人は手を振り合い、別れを告げた。
七海の住むマンションを出て、歩いて家に帰る。
七海を背負って歩いていたため、かなり疲労が溜まっている。
なので一歩一歩がしんどいが、何とか足を動かして歩く。
半分ぐらい歩いた所でかなり足が疲れてしまい、近くの公園のベンチで休憩をする。
数分間休憩して、そろそろ帰ろうかと思った時だった。
有咲から連絡があり、優はすぐにスマホを開く。
来ていたメッセージは帰りが遅い優を心配するような物だった。
『お兄さん、大丈夫ですか?帰りが遅いようですが』
七海の家でゆっくりした上公園で休憩しているので、本来よりかなり遅い時間になっている。
有咲が心配するのも無理ないだろう。
流石にこれは悪いと思い、しっかりと有咲に返信しておく。
『大丈夫だよ。ごめんな遅くなって』
優の本気の謝罪に有咲は納得し、呆れたように返信する。
『もう、あんまり心配させないでくださいね』
『ああ、分かったよ』
「よし、帰るか」
スマホに文字を打った後、すぐに立ち帰路に着いた。




