40 柔らかいんだが
無事夏祭りは終わり、今は七海と有咲と家に帰っている。
優は足が痛い七海を背負いながらまずは駅から近い自宅まで有咲を連れて帰る。
「では七海さん、また一緒に遊びましょうね」
「うん、またね」
「はい。さようなら」
そう言って2人は手を振り、有咲は家の中へ入って行った。
そこで七海が自分1人で帰ると言い、優に下ろしてもらおうとするが、一向に下ろしてもらえる気配が無く疑問を抱く。
「多分もう歩けるから良いよ?」
「いや、こんな暗い中1人で返す訳にはいかないし、まだちょっとは痛むだろ?」
正直、このまま歩いたら数日は痛みが続くだろう。
その事が優にはバレていて、完全に見透かされていることに少し恥ずかしさを覚える。
「ま…まあそうだけど…でも、流石にずっとおんぶして貰うのは…」
「いいのいいの、こういう時ぐらい甘えとけ」
優に優しい言葉をかけられて七海はそっと頷く。
すると優は七海を背負って歩き出した。
優の大きくて硬い背中を感じ、ドキドキしてしまう。
(これ…優くんに聞こえてないよね?)
早くなっている心臓の鼓動が優に伝わっていないかとても心配である。
(でも…今は…くっついていたいな…)
結局そのような結論に至り、七海はしっかりと優に抱きつき、赤くなった顔が見えないように背中に顔を埋める。
一方その頃優はというと…
(なんかめっちゃ柔らかいんですけどぉ⁉︎)
滅茶苦茶邪な事を考えていた。
急に背中から強く抱きしめられ、それによって七海の感触が結構伝わってきた。
良い匂いがする髪、なぜか背中に埋まっている顔、柔らかい腕、そして2つの柔らかい…
(あぁぁぁ゛これはただの脂肪ただの脂肪ただの脂肪…)
若干失礼な気もするが、とにかく脳を制御しなくては。
(生麦生米生卵灯台下暗しなくよウグイス鎌倉幕府)
とにかく思いついた言葉を心の中で連呼する。
が、その程度では無理があり、どうしても七海の感触を意識してしまう。
(あぁ何だこの柔らかい物質は⁉︎スライムか?スライムなのか⁉︎スライムだと言ってくれぇぇ⁉︎)
そんな訳はなく、それは紛れもなく七海の胸部である。
その事を脳が理解してしまい、優の制御システムは完全にオーバーヒートしてしまう。
(ああ…ただの柔らかい物が世界を救うんだ…)
優は熱でもあるかのように顔が赤くなり、フラフラしてしまう。
これには流石に七海も気づき、心配そうに優を見つめる。
「大丈夫?やっぱり…しんどいよね?」
「ん…?いや…大丈夫だ…」
「本当に?無理しなくて良いからね?」
「ああ…ありがとう…」
吐息が耳に当たるぐらいの距離で可愛い声が聞こえてきて、更にドキドキしてしまう。
ここで優も心臓の鼓動が聞こえていないか心配になってきた。
「七海…ちょっと…抱きつく力弱めてくれないか?」
「え…?あ…やっぱりこれだけ締め付けてると苦しいよね…ごめんね…」
「いや…別にそう言う訳では無いんだけど…」
「じゃあ…どうして…?」
七海もかなり恥ずかしそうに顔を赤くしている。
それだけでは無く、指先まで赤くなっているので優は七海が恥ずかしがっているのがすぐに分かった。
なのでここで1発仕掛けてみる。
「その…当たってる…」
「当たってる…?………ッ⁉︎」
直接的な表現はしていない為、変態扱いされる事はないだろう。
これでようやく七海が離れてくれた。
その事に安心しつつ、フォローもしておく。
「まぁ…なんというか…とても良かったよ」
「ゆ…ゆ…」
「ゆ?」
「優くんのバカァァァ!!!」
七海の渾身の一撃は優の頬に直撃した。




