38 やりすぎたんだが
「綺麗だったねー」
花火は無事終了し、終わった後の余韻に浸っている。
「去年より凄かったですね」
「あーそんな気がするな」
「そうなの?」
最近まで遠く離れた地に居た七海は話を理解出来ずにポカンとしている。
「ええ、去年お兄さんと2人っきりでラブラブしながら見た花火より凄かったですよ」
「その言い方やめてくれない⁉︎」
「ふーん…優くんと2人っきりでラブラブ…」
「いや普通に信じないで⁉︎普通に兄妹で花火見てただけだから⁉︎」
優の弁明が七海の耳に届く事はなく、七海は憎悪の目で2人を見つめる。
「私が居ない間に浮気してたんだね…」
「いや浮気って言わないで?」
「お兄さんの言う通り、浮気ではありません。お兄さんは元から私の物ですから」
「はい⁉︎」
「ふーん…」
有咲が火に油を注ぎ、七海の表情は更に曇っていっている。
(どうしてくれんの?これ)
戦犯である有咲に解決して頂きたいが、有咲に解決できる未来が見えないので何とか優が解決しにかかる。
「…………」
うん、何も思いつかなかった⭐︎
もう何回やったのこのパターン。
謎に浮気を疑われるのもう良いって。
付き合っても無いから浮気とか言わないで欲しいし、有咲も喧嘩を売らないで欲しい。
そんな事を口にする事はできず、優はただ立ちすくんでいた。
2人が喧嘩しているのを完璧に無視し、ボーッと空を見上げる。
(あ、お星様だー)
そんな風に優は得意の現実逃避をする。
(あれが冬の大三角かーカッコいいなー)
もうダメだコイツ。
完全に脳が仕事をしていない。
そんなダメ人間の事は無視して七海と有咲は喧嘩を続けている。
「私の方がお兄さんと長く一緒にいるんですよ?」
「た…確かにそうだけど!私の方が愛してるの!」
「そんな事はありません。長い年月を経て培った私とお兄さんの愛に勝るものはありません」
このように優への愛を比べて戦っている訳だが、当然そんな事は優にとってはどうでもよ良く、今も本人はボーッと現実逃避をしている。
そして気づけば優と2人は少し離れた場所に行ってしまい、美少女2人は男どもに絡まれてしまう。
「おねーさんたち、今から俺らと遊ばない?」
「きっと楽しいよー?」
声を掛けられるのと同時に2人は喧嘩をやめ、ナンパ男を蹴散らそうとする。
「いえ、私には夫がいますので」
「私には世界一大切で世界一大切にしてくれるお兄さんが居ますので」
「「「は?」」」
男達は脳天に疑問符を浮かべ、その場で固まる。
そして馬鹿にするように大きく笑う。
「はははwwおねーさん、それは無理あるよw」
「無理して嘘ついちゃってんのおもしろーw」
腹を抱えて笑う男どもに対抗するように声を出そうとするが、それが男達の耳に届く事はなく、勝手に話を進められてしまう。
「じゃ、行こうか。おねーさん方」
そう言って1人の男が七海と有咲の腕を掴もうとした……時だった。
男の両腕がとんでもない力で握られ、痛がってしまう。
「いでででで…誰だオメェ!」
「えーっと…通りすがりの赤の他人です…」
すっとぼけながら優が男の前に立つ。
それを見た七海と有咲は露骨に目を輝かせて喜ぶ。
「優くん!」
「お兄さん!」
「いや、赤の他人です」
とにかく関わらないで欲しい。
さっきとんでもない事言ってたから。
それと七海が言ってた夫と有咲が言ってた兄が同一人物という事がバレたらどうなるか分からない。
なので是非とも他人のフリをして頂きたいのだが……。
「君なら来てくれると思ったよ!旦那さん♡」
やめてください、バラすの。
あと、普通に旦那呼びしないで。違うから。
男達が怒っちゃったじゃん。
「あぁん?オメェが旦那様か?じゃあオメェから取れば良いんだな?」
「いや〜そうじゃないというか…」
「じゃあな!旦那様!」
1人の男が右手を振り上げ、優の顔面に叩き込もうとする。
そんな好戦的な男に対して面倒くせぇ…とか考えながら男の右手を掴み、そのまま薙ぎ倒す。
すると男達は頭の上に?を浮かべて一瞬固まってしまう。
直後、他の男達も殴り掛かってくる。
が、優によって一瞬で制圧される。
「は?え?」
「何が…起こった?」
(あ…やべ…)
気づけばギャラリーが沢山いた。
それを気にせず暴れ回ってしまったのでちょっとマズイ。
「逃げるぞ!」
「え?」
「あ…はい」
優が屈強な男達を制圧する姿を見ていた観衆が驚いた顔で見てくるので、優は2人を連れてその場から去る。




