37 その流れは既にしたんだが
色々あったが、いよいよ夏祭りのラストを迎えようとしている。
夏の風物詩、花火大会で夏祭りは幕を閉じる。
そこそこ大きな夏祭りということもあり、毎年花火もかなり気合いが入っている。
そんな花火を見ようと人で溢れかえるのだが、優達は人目から外れた高台から観賞しようとしている。
「もうすぐですね」
「ああ、あと30秒ぐらいかな?」
左隣の有咲がワクワクした様子でこちらを見ている。
毎年有咲と花火を見ているが、いつにも増して楽しそうだ。
昔と同じ場所で昔と同じメンバーで見るということでいつもと違った嬉しさがあるのだろう。
現に優もいつもよりワクワクしている。
そんな如月兄妹の反面、七海はというと…
「え⁉︎どうしたんですか⁉︎」
「え…あ…なんでだろう…」
目から涙が溢れていた。
そんな七海を見て2人は焦りながら理由を問う。
「なんか俺らが変な事したか?」
「いや…そうじゃなくて…嬉しくって…」
ハンカチで涙を拭きながら答える。
「また…2人と一緒に花火を見れて…幸せだなって…」
七海にしか分からない嬉しさがあるのだろう。
あれだけの過去がありながらも優と有咲と一緒にいる事を嬉しく思ってくれている事を知り、2人は七海のもとに近づき、同時に七海を抱きしめる。
その時だった。
1発目の大きな花火が空を舞った。
白くて大きな光が、真っ暗な夜空を照らしている。
だが3人はそれに気づく事なく話を続ける。
「私も…またななちゃんとお兄さんと一緒にいれてとても幸せです…」
「ああ…また3人で一緒になれて本当に幸せだよ」
有咲が今にも泣き出しそうな表情をしている。
優は優しい表情で2人に語りかけている。
「結構色々あったけどさ…やっぱり俺はこの3人で居る時間が1番幸せだよ…」
「そうですね…私もそう思います…」
「だからさ七海…泣かないでくれよ…。もう離れ離れになんかならない。もう離さない。この3人の時間は俺が守る。だからもう心配しなくて良いんだよ…」
優にかけられた優しい言葉に七海は嬉しくなり、更に泣いてしまいそうになるが、それをグッと堪えて涙を拭う。
そして2人に満面の笑顔を向ける。
「ありがとう。また…一緒にいてね!」
「ああ!」
「はい!」
笑顔の七海に応えるように2人も笑顔を向ける。
その後七海がもう一度笑いかけた所で花火が始まっている事に気づく。
「綺麗ですね」
「そうだな」
「……お兄さん?そこは有咲の方が綺麗だと言って欲しいのですが」
「いや、そこは七海の方が綺麗だよ…って言うところだよ?」
「はいはい2人とも綺麗だよ」
笑いながらそう言うと2人が顔を真っ赤にして顔を下げて恥ずかしがってしまった。
言えと言ったのは君たちなのにそんなに照れないで欲しいな。
「全く…ほら、下向いてないで上を見ろよ。綺麗だぞ」
優がそう言うと2人は上を向いて花火を見る。
2人は花火に見入り、楽しげな表情をする。
「おー綺麗だねー」
「あ、今の大きいですね」
「あ、ハートだ」
「可愛いですねー」
「そうだな」
「そこは有咲の方が」
「はいはい、可愛い可愛い」
こうして3人は花火大会を満喫した。




