34 愛してる
私は小さい頃、いじめを受けていた。
隔世遺伝にやって授かった白い髪が、さぞ気持ち悪かったのだろう。
時には悪口を言われ、時には髪を引っ張られた。
私はこの世界に産まれたことを心底後悔した。
でも、そんな私にも、暗い世界を照らす1つの光があった。
彼だけは、ずっと私に優しくしてくれた。
その名前のように。
優くんはこんな私に優しく接してくれた。
いじめられている私を、何度も助けてくれた。
それがその頃の私にとって誰だけ嬉しかったことか。
どれだけ心の支えになったか。
優くんがいたという事実が、私をどれだけ救ってくれたのだろうか。
気づけば私は、彼のことが好きになっていた。
いや、愛していた。
だからあの時言われた言葉が、とても嬉しかった。
たとえおままごとだとしても。
こうして私達の甘くて焦ったい純愛ラブストーリーが始まると思っていた。
あれは、小学校を卒業した直後のことだった。
中学生になるのを機会に引っ越すことになった。
他の人には親の仕事だと伝えたけど、本当の理由は当然私へのいじめだった。
親の苦渋の決断に、私はただ駄々をこねるだけだった。
引っ越し先はかなり遠く、優くんとはもう会えないかもしれないほどだった。
私は絶望した。
彼のいない世界で生きて行くなんて、想像もできなかったし、したくもなかった。
でも現実は無情で、結局引っ越すことになり、優くんとは離れ離れになった。
引越し先の中学では今までとは逆に、チヤホヤされるようになった。
どうにも私の見た目が綺麗でアニメの世界の人間みたいらしい。
そんな事を言われても何も嬉しくない。
前よりはマシだったけど、やっぱり優くんがいないと楽しくなんかない。
結局中学3年間ほとんど楽しい事はなかった。
強いて言えば、テニスで璃々ちゃんとライバル関係だった事だろうか。
元々いつか会った時優くんを1人にしないために始めただけの物だった。
でも、それはいつしか楽しい物に変わっていた。
それはきっと、璃々ちゃんがいたからだ。
「今度は絶対に負けないからね!」
何回私に負けても折れずに努力し、いつも頂上決戦に現れてくれる。
その事が、少しだけ嬉しかった。
でも、やっぱり優くんが居ないままで満たされる事はなかった。
高校は名門の麗英高校に行くことにした。
理由は簡単で、もう1度彼に会いたかったから。
彼ならきっと、ここにいる。
私にはそれが分かった。
親に無理を言って1人暮らしをさせてもらうことになった。
心配だからと何度も断られたけど、今までにないほど熱烈に答弁したら何とか許してくれた。
引越しも終わり、とうとう入学式の日が訪れた。
かなり忙しい日々が続いたから優くんの家に行く暇がなかったけど、きっといつか会えると信じて登校した。
その瞬間は、突然訪れた。
見間違えるはずもない、私の1番好きな人。
ああ、神様は居るんだと思った。
でも、そんな彼の横にネチネチとくっついている女がいた。
神様は居ないと思った。
あれだけ優しくてカッコいいのだから、彼女の1人ぐらいいてもおかしくない。
でも、私は忘れていない。
あの時の彼の優しさを。
あの時の彼の言葉を。
その言葉を、私は何度も心の中でつぶやいて、勇気をもらってきた。
だからもう1度、私に勇気をください。
(愛してる)




