33 嵐が来たんだが
あれからも3人で夏祭りを満喫している。
人混みの中をかき分けるように歩き、行きたい屋台を巡る。
夏祭りに来てから1時間と少し経った頃に有咲がモゾモゾした様子で口を開いた。
「あの、少しお手洗いに行っても良いですか?」
お腹を抑えながら恥ずかしげにボソッと言ってきた。
それに優は少し気まずそうに承諾し、2人を連れてお手洗いに向かう。
少し前に着いたところで七海が一緒に着いていってあげると言ったので優は2人を見送り、少し離れたところで待つ。
その時、後ろから優に人影が迫ってきた。
「如月くん…だよね?」
「ん?えーっと………紗倉…さん?」
突然現れた金髪美少女に困惑してしまう。
璃々も少し驚いた表情でこちらを見てくる。
「俺の顔に何かついてる?」
「いや…そういうわけじゃなくて…なんというか、いつもと雰囲気が違うね」
「そうかな?」
確かに、本日の優は普段の学校にいる優とは一味違った印象だ。
いつも少しボサボサの髪をしっかりセットし、服装をかなりオシャレしてきている。
あまり仲が良くない人から見たら別人だろう。
まあ元々顔の造形は綺麗なので学校では髪と性格で何とか誤魔化している。
そんな優の変化に一瞬で気づくことができた璃々はなかなか凄い。
別に特別仲が良かった記憶はないのだが。
「普段はこんなにかっこいいんだね。そりゃ七海ちゃんも惚れちゃうわけだよ」
「え?何言ってんの?」
突然衝撃的な言葉が耳に飛んできて驚きが隠せない。
「いや、あの態度を見てたら分かるよ。七海ちゃん、いっつも如月くんの素晴らしさを語ってくるの。本当に、大変なんだからね」
「それはなんかごめん」
「ううん、七海ちゃんは楽しそうに話してるから良いの。それより如月くん…」
「ん?どした?」
少し言いにくそうに口を押さえている。
その動作に?を浮かべつつ璃々の発言を待つ。
すぐ後に声量を抑えて優に質問した。
「如月くんは…七海ちゃんのこと…好き?」
「はい⁉︎」
「だって如月くん、何だか七海ちゃんのことを避けていると言うか、遠ざけているように見えるの」
「そう…見えるのか…」
優が切なげな表情をする。
そして悲しそうに口を開く。
「七海の事は好きだよ。友達として」
「異性としては?」
「それは…わからない。そもそも、俺にあんな良い子を好きになる資格なんてないんだよ…」
下を向いて声のトーンを下げて話す優を見て、らしくないと思い、璃々は優の肩を軽く叩きながら寄り添う。
「そんな事はないよ。如月くんほど七海ちゃんにお似合いな人なんていないよ」
「いや…でも…俺は七海を救ってやれなかった…!」
悔しそうな顔で、忘れたい過去を思い出しながら語る。
そんな優を見て、璃々は自慢の笑顔を作り、優を宥めるようにニコニコと話す。
「2人に何があったかは知らないよ。でも少なくとも、七海ちゃんは君を待ってる」
「……え?」
「七海ちゃんにとってそんな過去は関係ない。ただ今如月くんの事を好いているんだよ。だからさ、君は七海ちゃんのことを好きになっても良い」
「いや…でも…!」
「如月くんにはあのうら若き乙女を愛してあげて欲しい!彼女はそれを必要としているの!」
璃々の眩しい眼差しに、優は感化されてしまう。
心の中の雲が晴れた気がする。
今、心の中に残っていた罪悪感が、少し薄れた気がする。
それが優にとって、どれほど嬉しいことか。
(ああ…そうなのか…七海…)
下を向いて少し考えた後、顔を上げて真っ直ぐに璃々の目を見る。
「愛すってのはまだ難しいかもしれないけど…頑張ってみるよ…俺…」
「うん!頑張って!」
そう言ってニコニコと手を振りながら去っていった。
まるで台風のようだったな。
一瞬で荒らして一瞬で去って行った。
いや、荒らされてはいないか。
「…よし!」
今までとは一変した良い表情をし、優は2人の帰りを待つ。




