03 別に嘘は言ってないんだが
入学式が終わり、クラスも決まったので教室に入り、席に着く。
「よし、全員揃ったな。では、順番に自己紹介を」
教壇に立った先生がそう告げると、出席番号の早い生徒から順番に自己紹介が始まる。
「一条柊太です。趣味は体を動かすです。よろしくお願いしまーす」
茶色の髪をやや伸ばし、それでありながら顔も整っており、かなりモテそうな外見だ。
たぶん、スポーツも上手くて勉強も出来る万能モテキャラなんだろうなー。
そして次は左前の可憐な少女。
「紗倉璃々です。昔からテニスをしていて、中学の頃はいつも後ろの席の桜庭さんに負けて準優勝でした」
ニコニコしながら七海のことを見つめている。
それだけライバル意識が強いのだろう。
七海は全く気にしていないようだが。
(七海って中学はテニスしてたのか)
中学生の七海のことは全く知らないので、それはかなり意外だった。
(というか、佐倉さんの言い分的に七海って中学の時テニスで無双してた?)
いつも七海に負けて準優勝していたということは七海はいつも優勝していた訳だ。
かなり強くなったんだなとか考えていると璃々の自己紹介が終わったようで、次は優の番となる。
何を言うか全く考えていないが、とりあえず適当にしてみる。
「如月優デース。趣味はゲームです。よろしくおなしゃース」
特に目立たないよう、計算され尽くした自己紹介をする。
(我ながら完璧だッ)
全く無意味なことに脳をフル回転させる。これぞただのアホ。
少し間が空いたあと、七海が席を立つ。
「桜庭七海です。中学の頃はテニスをしていていつも前の席の佐倉さんに勝って優勝していました」
いや、ナチュラルに喧嘩を売るな。
この発言には璃々も苦笑いをしながら七海の顔を伺うが、七海は構わず自己紹介を進める。
「そして…隣の席の優くんとは恋人同士です♡」
「は!?」
頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうに顔を押さえている。
そんなに恥ずかしいなら言わなくていいだろうに。
というか、何言ってんのこの人。
全然一切付き合ってないんだが。
「おお……」
「あの男が…?」
「マジか……」
クラス中の人間が驚いた様子でボソボソ話しているが、優は全部聞こえている。
(マズい……このままでは…)
とにかく弁明しなくては。何人かの男に殺されてもおかしくない。
とりあえず立って周りの生徒に話す。
「いやーこの人なんというかあまり意味を理解せずに言っているというか」
「ちゃんと分かってるよ?私達ラブラブだもんね♡」
「えぇ………」
これはもうどうしようもない。
諦めた方がいいかもしれない。
でも流石にクラスメイトに勘違いされたままは嫌なので反論する。
「いやいやいや、普通に告白とかしてないからね?」
「したよ?あれは小学1年生の頃…」
「もうそれはいいから!?でも俺たちはただの幼馴染で恋人では無い!」
言ってやったぜ。
これでクラスメイトから勘違いされることはないだろう。
でも、目の前の少女は今にも泣きそうになっているが。
「なんで!?あの時の告白は嘘だったの!?私はただの都合のいい女だったの!?」
「えぇぇ!?ちょっ…何言ってんの!?」
このままでは別の勘違いをされてしまいそうな気が。
クラスメイトから変に勘違いされず、七海が悲しまないようにするにはどうするべきか。
優は脳をフル回転させて考えた。
そしてたどり着いた結論は
「(七海、あの時の告白は嘘じゃないけどやっぱり昔のことだからさ、またいつか改めて告白するからさ。だから今はただの幼馴染のフリをしよう)」
焦りつつ、七海の耳元そうで囁く。
この発言は嘘ではない。
いつかは告白するよ。いつかは。
告白の内容も別に好きって言うことが全てじゃないし。
とにかく、嘘はついていない。
ただ、この発言を聞いた七海は脳がオーバーヒートしてしまったようで、完全に体の力が抜けて席に着いた。
それを見てやりすぎたなと思いつつ、優はクラスメイトに弁明しておく。
「すいませんねーこの人何も考えずに適当に発言しちゃう人だからさ、なので俺たちは別に付き合ってたりしないので…」
ホントスミマセンネーと言いながら優も席に着く。
隣を見てみるとまだ顔を真っ赤にしたまま下を向いている。
(これは七海に勘違いされたな…)
クラスメイトに勘違いされないようにしたらヒロインに勘違いされてしまったんだが。