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29 バレてないんだが


あれから少し歩き、目的の浴衣が並んでいる店に入った。


夏祭りの時期ということもあり、浴衣がズラッと並んでいる。


「おお、すごいですね」

「だな」


その景色に魅了された有咲(ありさ)が目を輝かせている。


「どれにしましょうか」

「ま、試着したらいいんじゃね?」

「そうですね。ではお兄さんはどれが良いと思いますか?」

「いや、俺がどうこうじゃなくて、自分でいいと思ったやつを着ろよ」

「いえ、お兄さんが1番似合っていると思う物を着たいのです」

「あ、ソウデスカ」


止まることを知らない有咲が自分の信念を貫く。

そんな有咲に敗北した(ゆう)は似合いそうな浴衣を探しに行く。


「うーん…これとかどうだ?」


指を指しているのは紫を基調とした華やかな浴衣だ。


「おー、いいですね。では早速試着してきます!」


そう言ってすぐに試着室に向かう有咲に、優はぞろぞろとついて行く。


(ホント、いつになったら兄離れするのやら)


ブラコンの妹に少し呆れた音を上げる。


君も十分シスコンだけどね。


こうして妹の元へ向かっていると視界の端に白い何かが見えてきた。


(ん?あれって…)


「やっぱりこっちがいいかな?」

「んーでもこっちの方が大人の女性っぽくていいかもね」


優から少し離れたところで浴衣を吟味しているのは幼馴染の七海(ななみ)とその友達の紗倉璃々(さくらりり)


恐らく夏祭りに着ていく浴衣を探しに来たのだろう。


誰に見せるためなのかは何となくわかってしまったので2人にバレないように身を隠しながら有咲の所へ向かった。


試着室の前に着いたところで一息し、有咲が着替え終わるのを待つ。


浴衣は着るのが難しいので時間がかかるのだろう。

かなり時間がかかっている。


別に普段なら構わないのだが、今は違う。


あの2人と出くわせば、非常にマズイ空気になりそうだから。


(うーんどうするべきかなぁ)


そのように思考を巡らせていると、試着室のカーテンが開かれた。


その場にいた人間の視線がその少女の元に集結する。

お淑やかな美少女が華やかで美しい浴衣を着ている。

それはまさに奇跡の組み合わせだった。


「かわいい…」

「えっ天使?」


そのような声が優の耳に着地する。

が、それらを気にすることなく優は有咲の浴衣姿に正直な感想を述べる。


「うん、よく似合ってるな」

「あ…ありがとうございます…」


恥ずかしそうに返事をした後すぐにカーテンを閉める。


(お兄さんに褒められてしまいました…)


頬を紅に染めて顔を埋める。


恥ずかしさもあるが、同時にとても嬉しかった。


憧れの人に褒められると、やはり喜んでしまう。


こうして有咲は上機嫌となり、この浴衣にすることを決めた。

そして着替えて試着したを後にする。


「これにします」

「そっか」


そうして何とか2人にバレることなく買い物を終えることができた。


……と思っていた。


「あれって…如月(きさらぎ)くんと妹さんだよね?」

「え?あ…うん…そうだね…」


七海の顔色が変わる。


優が試着室を出て仲良く有咲と話しているところを見てしまった。


璃々からすると兄妹仲良く買い物をしているように見えたが、七海からするとそうではない。


有咲は間違いなくデートのつもりでいる。

その心の中が手に取るようにわかる。


そんな七海からすれば、目の前の光景は妬ましい物だった。


(ふーん…私に内緒で2人で仲良くデート…ね…)


七海は嫉妬の目を向ける。

隣に居る璃々は訳がわからず、事情の説明を要求する。


七海から説明を受けると、璃々は目を見開いて驚く。 

「有咲さんは…ライバル…ってこと?」

「うん…そういうこと…」


ただの仲のいい兄妹だと思っていた璃々からすると、それは衝撃的な事実だった。


こんな風に七海の恋愛事情について深く知った璃々と嫉妬で埋め尽くされている七海は有咲に負けないように全力で浴衣を選んだ。


その姿はまるで獲物を狩る準備をする肉食動物のようで、周りの客から恐れられながら買い物をしたのだった。

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