217 妹
何とか女子の長蛇の列を捌き切った後、優は妹を連れて親が待つ門の前まで歩く。
その途中、有咲が拗ねたように頬を大きくしていたのでそれについて尋ねてみる。
「有咲…?なんかあった…?」
「いえ、別に」
有咲は目も合わせずにプイッとそっぽ向いてしまった。
(いやなんかあっただろ絶対)
こんなわかりやすい反応をされては流石に鈍い優でもわかる。
(この拗ねっぷりは…俺がなんかやっちゃった感じ?)
有咲は優が何かをやらかした時は妙にわかりやすく拗ねるのだ。
そして今回の有咲も滅茶苦茶わかりやすく拗ねている。
(うん、間違いなく俺だな)
流石に目すら合わないときたら理由は優にしかない。
でも肝心の【何をやらかしたか】がよくわからない。
(一体何に拗ねて…あ、)
心当たりが1つだけあった。
流石に今日ぐらいは許されると思っていてたあのことだ。
…一旦事実確認しておくか。
「なあ…もしかして、さっきのこと?」
「さっきのこととは?」
「いやその…写真撮ってたやつ…」
「ええそうです。女の子をたぶらかしてハーレムをしていたことです」
「いや一体何を見てたの⁉︎」
有咲にあらぬことを言われ、優は思い切りツッコミを入れた。
そして有咲はより一層口を尖らせて優に対する文句を綴った。
「楽しかったですか?たくさんの女の子にチヤホヤされるのは」
「いや別に楽しいとかじゃ__」
「私という妹がいながら女の子にメロメロで…少し呆れましたよ」
(あ、そこは少しなんだ)
などという本心を何とか声にしないように抑え、そしてこの状況を解決させるために言い訳を絞り出す。
「それはごめん。今日で卒業だからって浮かれすぎたかも。次からは絶対にしないから」
そして次は頭を下げて謝った。
そのまま数秒間沈黙が続いた。
その時間は優にとってはドキドキでしかなかったが、有咲にとってはそうではなかったようで、いつにもないような雰囲気で笑い始めた。
「…?」
優は有咲の笑い声に対して疑問符を浮かべ、そして頭を上げて有咲の顔を見た。
するとそこには涙が出そうになるまで笑っている有咲がいた。
「え、どうした?なんかあったか…?」
「ふふっ、いえ、別にっ」
「いや絶対なんかあっただろその反応」
そして笑いが少し収まった頃、身体を震えさせながら口を開いた。
「ごめんなさいっ。少し揶揄いすぎてしまいましたねっ」
「え?」
「冗談ですよっ。私あれぐらいで怒りませんよっ」
有咲は突然距離を縮めて来て手を握ってくる。
「お兄さんがモテるのは当然のことです。そして優しいお兄さんが一緒に写真を撮ってあげるのは必然のことです」
…なんか評価滅茶苦茶高いな。悪い気はしないが。
優は何となく鼻を高くしながら有咲の話を聞く。
「でも忘れないでください。お兄さんのそばにはお兄さんのことを誰よりも愛している妹がいることを」
有咲は強く手を握ってくる。
そこから有咲の気持ちが届き、心が熱くなるのを感じた。
(愛してる、か)
やはり何度聞いてもドキッとしてしまう。
これが魔法の言葉というやつか。
何度も聞いたことのある言葉に心臓を跳ねさせつつ、優は有咲の手を握り返した。
「ああ、わかってる。俺には有咲がいてくれるってこと。そして、有咲には俺がいる」
「っ!!」
優は何度でも自分の気持ちを伝える。
「俺も有咲のことを愛してるよ。だから、安心して」
有咲は顔を赤くしてオドオドするが、優は握った手を離さない。
「やっぱ有咲は可愛いな」
「っ⁉︎」
「有咲は最高の妹だよ。俺の妹でいてくれてありがとな。そして、これからもずっと俺の妹でいてくれ」
心の中から溢れ出て来た言葉を口にすると、有咲は顔を赤くしたまま笑って。
「はいっ!!」
そうやってまたいつものように大きくて元気な返事をするのだった。
次回を最終話にする予定です




