216 命の危機
その後行われた卒業式は何事もなく終了し、そして最後のホームルームもみんな涙を流しながらも何とか終了した。
そして各々が部活の後輩と話したり先生に感謝を伝えたりなどをしている中、優は涙を流しながら友達と話をしている有咲を見て少しうるっとなりながら教室から出て行った。
「お、出てきたな」
「優ぅ〜」
扉を開けてすぐ目の前には両親がいた。
優希はいつものように堂々とした態度で、奈々は溢れ出る涙を何とか拭っていた。
そんな対照的な表情の両親に、優は笑いかけた。
「父さん。母さん。ここまで俺を育ててくれてありがとう」
「っっ⁉︎」
「ははっ、言うようになったな」
奈々は驚き、優希は軽く笑った。
やはり正反対の反応を示す親だ。
どうやってこの2人がくっついたのか疑問が湧いて少し考えるが、その間にも奈々は涙を流していた。
「ほらほら、子供の前なんだからもうちょっと抑えて」
もうハンカチが絞れそうなぐらいに涙を流している奈々に優希が寄り添う。
「だ、だって〜っ!」
「気持ちはわかるけど」
「あなただって卒業式の時泣いてたじゃないっ!」
「な__っ⁉︎」
奈々に突然暴露され、優希は慌てて頭を下げた。
「ごめん、いくらでも泣いていいからそういうことを言うのはやめて」
その言葉に奈々は軽く頷いた。
コレでようやく優希が落ち着きを取り戻したところで、1度咳払いをした。
「んで、これからどうする?とりあえず有咲が来るまで待つか?」
どうせ写真撮るだろうしと付け加えて尋ねると、優希は一瞬だけど悩んだ後にこの言葉を否定した。
「いや、お前も混ざってきたらどうだ?友達と一緒に写真でも撮ってこいよ。俺たちは門の前で待ってるからさ」
「……」
「もしかして遠慮してんのか?」
「…いや、そういうわけじゃ」
的確なところを突かれ、優は一瞬身体を跳ねさせた。
その行動で図星だと分かったのか、優希は容赦なく攻撃してくる。
「最後なんだし遠慮なんかすんなよ。いつか後悔するぞ。ほら、行ってこい」
「っ!!」
優希に強めに背中を押され、優は教室に入って行った。
(ったく、荒い人だな)
心の中で少しだけ文句を言いつつ、優は適当に教室内を見渡した。
「ねぇ如月くん。写真一緒に撮ってくれない…?」
ゆっくり歩き出そうとした時、突然クラスの女子が声をかけてきた。
「写真?」
「う、うん」
特に断る理由もなく、優はあっさり承諾した。
そして写真をパシャリと撮った時、優はあることに気づいた。
(これ、七海に浮気だとか言われないか?)
いつもの七海なら女子と会話しているだけで浮気を疑ってくる(は?)。
しかも今回はツーショットまで撮っている。
いつもなら絶対に面倒臭いことになる。
そう、いつもなら。
(いや今日くらいは許してくれるだろ)
七海も鬼ではない。
なので卒業式の日くらいは許されるだろうと、優はその後もクラスメートとツーショットを撮っていって…そこでまた1つ気づいた。
(なんか女子率高いな)
自分で集計した結果女子が167%であり、完全に何かがおかしいことに気づいた。
なんか途中から列ができてたし、何なら他クラスの女子も結構混ざっていた。
優は若干気が引けるが、お得意の【今日なら許される】戦法で何とか列を捌いていった。
そんな光景を、遠くから見つめる女子が2人。
(お兄さん、やはりモテモテだったんですね…。噂でお兄さんのことを好きだという方がいるとは聞いていましたが、まさかここまでとは…)
(優くん…あんなに女の子にデレデレで…絶対浮気だよね?不倫だよね???)
(お兄さん…これは擁護できません)
(1人ならまだしも、何十人も同時だなんて…)
その2人の女子は同時にこう考える。
「「絶対に許せない(ですね)」」
優は命の危険を感じ取ることができず、そのまま女子と写真を撮り続けた。




