215 友
あれからも異様な雰囲気が続いたが、何とか学校に到着し、そして別クラスの七海とは一旦別れることになった。
その時に七海はこの世の終わりかのような暗い表情を浮かべたが、コレばかりは仕方がない。
優は残った有咲を連れて教室に入った。
「おはよ」
「おはようございます」
そうやって挨拶をしながら入ると、まず目の端にもの凄い光景が映り込んだ。
「な、何だコレ…」
「これは…黒板アートというやつでしょうか?それにしてもかなりのクオリティのようですが、一体誰が…?」
2人が黒板に目を向けると、そこには最近流行った映画のワンシーンを切り抜いたイラストが大きく描かれていた。
しかも所々丁寧に描かれていて、普通に高校生が描いたクオリティとは思えなかった。
当然優と有咲は誰が犯人なのかを探そうとするが、そこで後ろからある人物がやってきた。
「凄いでしょこれ」
「ああ、マジで凄いな。誰が描いたんだ?」
「ああ、それはね…」
優の高校からの友人である柊太がクラスの後ろの方で話をしている璃々に目線を向けた。
「も、もしかして…璃々さん…?」
「ご明察」
「す、凄いですね…」
「さすが美大生」
この黒板アートの犯人は春から美大に通う璃々のようで、優は納得のいった風に軽く頷く。
と、そんな感じで璃々のことを見ながら褒め称えているとどうやら視線に気づいたようで、興味津々でこちらに迫ってくる。
「どうかしたの?私のこと見てたよね?」
「あ、ああ…」
「この黒板アートを描いたのは璃々さんだと聞きまして。本当に凄いですね」
「あはは、照れるね」
璃々はむず痒そうに頭に手を回した。
「流石璃々さんです。10万人に1人の才能はやはり健在のようですね」
「その言い方やめて〜っ!!すっごく恥ずかしいんだから!!!」
恥ずかしがっている璃々に追い打ちをかけるように有咲は言葉を綴る。
「やはり璃々さん程の実力者ともなれば筆でなくてもこのような絵が描けてしまうのですね」
「〜〜っ!!」
璃々は顔を赤くして身悶える。
直後璃々は目だけを上に向けて口を尖らせた。
「有咲ちゃんは意地悪だよね…」
「そうですか?」
「うん、意地悪だな」
「っ!!お兄さんまでっ!!」
まあ有咲が意地悪なのは優にとっては言うまでもないことであり、ついて反射的に言葉が出てしまった。
それに対して内心冷や汗をかいていると、そばにいた柊太が大きく笑い始めて。
「あははっ、やっぱ面白いなっ」
そしてそれに釣られるようにみんなも同時に笑い始めた。
そして数秒後にその笑いは収まり、腹を抑えながら話し始めた。
「いや〜やっぱ友達っていいね」
「そうですねっ」
「学校って案外楽しいもんだったのかも?」
「今気づいたの?もう学校終わっちゃうよっ」
優以外の3人は小さく笑った。
そして笑いが収まった頃、優は上を見ながら口を開けた。
「あんなにダルかった学校ももう終わりか〜。なんか終わりってなると悲しくなるの何なんだろうな」
「さあね。でもこの気持ちはみんな共通だよね」
「そうですね。私も、今にもこの関係が終わってしまうんじゃないかってドキドキしてます」
有咲の少し寂しさが混ざった声に、璃々が笑顔を向ける。
「大丈夫っ!私たちの関係はまだまだ終わらないよ!みんな住むところもそんなに遠くないし、また一緒に遊べるよ!」
「だな」
「そうですね。また一緒に、遊びましょうねっ」
「うんっ!あ、七海ちゃんも誘っていい?」
「………」
途端に有咲が口を閉ざし、異様な空気が流れる。
有咲は拳を顎に当てて悩み込み、10秒後に結論を出した。
「いいですよ。友達ですし」
「いやその間はなに」
「いえ何も。ただお兄さんと七海さんがイチャイチャし始めないかが心配で」
「何を心配してんだよ!!!」
いつも通りの兄妹芸に、柊太と璃々はまたしても大きく笑ったのだった。




