214 終わりの始まり
3月1日、早朝。
まだ寒さが残る初春、麗英高校では卒業式が行われる。
優はこの日をもって高校を卒業し、新しい世界へ羽ばたいて行く。
「今日で、終わってしまうのですね」
登校中、有咲は隣でそんな言葉を漏らした。
当然有咲も今日をもって高校を卒業し、そして優とは別居することになる。
有咲はそれに対する悲しみを隠しきれず、下を向いて少し涙を浮かべる。
「ご、ごめんなさい…もう終わってしまうと思うと…胸が締め付けられてっ…!」
少しずつ涙の量を増やす有咲を、いつものように隣にいた七海が軽く抱きしめる。
「確かに今日で高校生活は終わりだけど、それで全てが終わるわけじゃないよ。きっとまたみんなと楽しく過ごせる日が来るよ。それに…」
七海は有咲に笑顔を向けてこう答える。
「私たちは、一緒だよ。大学も同じだし、何より私たちは幼馴染でしょ。有咲ちゃんが寂しい時や苦しい時は、私たちがついてる」
七海の言葉に乗るように優も言葉をかける。
「そうだぞ。俺たちは運命の糸で結ばれている。どこに行っても俺たちは心で繋がってる」
優は横から有咲の頭を撫でる。
そして有咲の涙が収まり、七海は腕を退けた。
「そう、ですね。私たちは繋がってる…」
「ああ。そもそも、俺たちは兄妹だしな」
「そして私とは親友で、私と優くんは恋人で…三角関係だねっ」
「いや恋人のくだりいる?別になくても良くなかった?」
優がジト目を向けながらツッコミを入れると、有咲はおかしそうに笑い始めて。
「そんなに面白かったか?」
「はいっ。三角関係、ですねっ!」
「いや乗らないで?ややこしくなるから」
「有咲ちゃんには負けないよ??」
「ほらこうなった!!!」
「ええ、望むところです」
「もういいってこの流れ!!!!」
有咲はいつもの調子に戻り、そして七海との睨み合いが始まった。
こんないつもの光景も今日で最後なのか。
(…あかん泣きそう)
2人が戦争に夢中になっている外で、優は涙が流れそうになった。
流石に妹と彼女の前で泣くのは恥ずかしすぎるので何とか気持ちを抑えて歩き始める。
「ほら、行くぞ2人とも」
「優くんは」
「お兄さんは」
「「どっちを選ぶの(ですか)!!!」」
「………」
またこの流れかよ…。
もう慣れてきてしまった自分がいて恐ろしいよ。
結局3年経ってもコレ系の質問の答えは分からず、いつも適当に流している。
結局それが1番丸く収まる(気がする)。
優は脳内では何も考えず脊髄反射で話をする。
「俺は2人を選ぶよ」
「それじゃダメですっ。どちらかにしないと」
「そうだよ。そもそも日本の法律的に…」
「いいや、俺は2人を選ぶね。こんな美人2人に好かれてるのに片方だけなんて無理だ。法律?改正すればいいじゃん」
「「〜〜っ♡」」
無事に2人のハートを射抜くことができ、この話は幕を閉じた。
やはりこの作戦は最強だ。
でも実は欠点が1つだけある。
「そ、そうだね…。私たちの愛を法律なんかで縛れないよね…♡」
「お兄さんと一緒にいられるのなら…どこまでも着いて行きます…♡」
その欠点とは、2人をメロメロにしてしまうことだ。
まあこの状態にも慣れたのでどうということはない。
むしろ最近は楽しくなってきてたり。
(フッ、なんて罪な男なんだ俺は)
などといったクソキモ便所に溺れろ(?)な感じのことを考えるようにもなってきている。
優は自分で自分に(コイツもう手遅れだな)とツッコミつつ、両腕に抱きついている美少女2人を連れて足を進めて行った。




