213 将来
放課後になると校内には騒がしい雰囲気が漂い、それに流されないようにササっと学校を出て帰路に着く。
有咲を連れて家まで送り届けたあと、七海と2人きりで道を歩いた。
そしてマンションの真下まで来た時に、七海が笑いながらある提案をしてきた。
「ちょっとだけ私の家でお茶しない?話しておきたいことがたくさんあるから」
「話しておきたいこと?」
「うん、私たちのこれからについて」
「はあ」
優は七海の言葉の意味を全く理解していない状態のまま家に上がった。
そして流れるように七海が紅茶を用意し、差し出してきた。
「ありがと」
「うん。さて、色々話し合いしよっか」
七海は前の席に座り、ココアを1口飲んでから口を開いた。
「まずは2人で暮らし始めてからどういった生活を送るかを話し合いたいの」
「ほお」
「例えばなんだけど、大学生になってからバイトとかする予定ある?」
「ん〜そうだなぁ」
正直言って考えたことがなかった。
でも今思えばバイトとかしてみるのも悪くない。
そういうところで社会経験を積めたりするし、何よりお金が稼げる。
でも優の中には1つ大きな懸念点があった。
(そのせいで七海といる時間が減るのかなぁ…)
その懸念点とは、バイトに時間を割きすぎて大好きな七海との時間を取れなくなってしまうことだった。
前は別に毎日数時間あったりしないでも足りていたのに、最近は悪化してきていて毎日5時間は七海と一緒に過ごしていないと欠乏症になる。(電話でも可)
てなわけでバイトはお断りかな。
「とりあえずはいいかな。一応親からの仕送りで結構足りそうだし。そういう七海はどうなんだ?」
「う〜ん。私は悩んでる途中なんだけど…優くんはどう思う?」
「え?絶対にしないでほしい」
「そ、即答…どうして?」
優の即答の理由は簡単だった。
「七海ぐらい可愛い人が接客なんてしてみろ。ナンパの嵐になるぞ?」
「じゃ、じゃあ裏方で…」
「その場合は職場の男に邪なことを考えられそうで嫌。てか裏方に限らず邪な目を向けられそうだから絶対に嫌」
「それってつまり…優くんが嫉妬してるだけ?」
「まあそれもあるけど、大事な彼女を守りたいっていうことだよ」
まあこういった理由で七海にはバイトをしてほしくない。
そのことを伝えると、七海は顔を赤くした。
「そ、そうなんだ…優くんは独占欲が強いんだね…」
「まあ、な。嫌か?」
「いや全然…むしろ嬉しいっ」
七海は頬を赤く染めたまま笑いかけてくる。
(守りたい、この笑顔)
優は七海の綺麗な笑顔を見てそう思いながら話し合いを続けた。
「んで、家事の分担はどうする?」
「分担?」
「え?分担するだろ?」
「え、いや…。全部私がするよ?」
「え?」
七海はさも当然のことかのように言葉を綴る。
「家事をして夫を支えるのが妻の役割でしょ?」
「いやどう考えても気が早いだろ」
「ううん。早くなんてないよ。だ、だって優くんがプロポーズしてきたんでしょ…?」
「うん…?」
いやプロポーズまでした記憶はないぞ?
それに近しいものをした記憶はあるが。
彼女はそのことを言っているのだろうか。
「……」
いや、この目はそれじゃないな。
だとすると、もうあれしかないな。
「もしかして、昔の話してる?」
「昔?」
「そう。小さい頃におままごとでしたプロポーズ」
「さぁ、どうだろうねっ」
「絶対そうじゃん⁉︎」
七海はわざとらしく斜め上を見ながら口笛を吹き始めた。
全く、いつまで経っても昔遊びでした告白を引きずってくる。
そんな彼女からこの記憶を上書きしてでも消せる日が来るのだろうか。
まあ上書きの仕方は何となくわかっているのだが。
本当のプロポーズ。
これが、彼女の記憶から昔のプロポーズを消す手段。
でもそれを実行する日は、少なくともあと4年後だろう。




