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210 全てを捧げて


あれから数秒間、このリビング内には沈黙が続いていた。


(ゆう)は頭を下げたまま動かず、七海(ななみ)の両親である(さとし)翔子(しょうこ)の言葉を待っていた。


そしていよいよ不安な気持ちが絶頂に達そうとしていた時にようやく智が口を開いた。


「…そうか」


ただ一言、答えになっていない言葉を漏らした。


そこで優は目だけを正面に向けた。


「!!!」


そこには溢れる涙を拭っている翔子と、目と口元を震えさせながら少し下を向いている智がいた。


完全に想定外の反応…でもなかった。


優はふと父に言われた言葉を思い出した。


「だってお前たちが幼い頃から2人が結婚したらいいなって話をしてたんだぞ?そんな夢物語が現実になるんだぞ?俺なら泣くね。いや泣いた」


父の言葉の通り、今目の前にいる七海の両親は感涙に浸っているのだろう。


そんな2人の気持ちを察し、優は答えを急かしたりなどせずただ深々と頭を下げていた。


そしてまた数秒後、智から言葉をかけられる。


「顔を上げてくれ」


少し震えているような、けれども芯のある言葉をかけられ、優は反射的に顔を上げて正面を見た。


そこで智と目が合う。


「本気なのか?」

「はい、本気です」


智は涙を抑えつつも、強い目つきで優の真意を問う。


「君に、俺の1番大切な娘を幸せにできる自信があるか?」

「あります」


優も信念を持って智の目を見つめ返し、自分の熱い気持ちを言葉に乗せた。


「俺は一生かけてあなたの娘を幸せにします。俺の人生の全てを、彼女に捧げるつもりです」

「っ!!!!」


優にここまで真剣にこのような恥ずかしいことを言われ、七海には衝撃と羞恥が襲ってくる。


「〜〜!!!」


七海は声にならない声を上げながら自分の顔を押さえる。


だが優はそんなことにも気づかずただ目の前にいる義両親となりうる人物と話をしていた。


「ちなみに、娘のどこが好きなんだ?」

「そうですね。正直言うと、全て、ですが…そんな答えは望んでないですよね」


智は静かに首を縦に振った。


「強いて、挙げるとしたら…」


優は自分の記憶の中にいる七海の姿を思い返した。


そして自分の思う最愛の七海の姿を、この義両親にぶつけた。


「笑顔、ですかね。七海の、何よりも美しくて何よりも眩しい笑顔が、俺は大好きです」


智は少し身体を跳ねさせた。


だが完全にスイッチが入った優はそれにすら気づかず、ただ自分の想いをぶつけた。


「それと、優しくて上品で、でも少し天然でわがままで、破天荒で喜怒哀楽が激しくて、愛情表現が豊かで、たまに子供っぽく拗ねたり__」

「もういい」


智の言葉に止められ、優はようやく目を覚ました。


やりすぎたかと、そう思った。


視界が暗くなり、絶望で満たされそうになる。


その時、自分の正面から両肩を叩かれる感覚があった。


「……っ!」


そこには涙を流しながら身を乗り出している智の姿が。


「君に任せるよ…。優くん。君に、七海を任せるよ…!」


胸の中から絞り出したであろうその言葉に、優は心が満たされるのを感じた。


「智さん…」

「ははっ、今日からは()()()()()、だろ?」

「そうですね…お義父さん」

「そうだ。それでいい」

「私は…?」

「…お義母さん」

「ふふっ、なーに?」


横でずっと涙を流している翔子もようやく笑った。


そしてそれに乗せられたように智も笑い、この空間にようやく笑顔が芽生えた。


そんな義両親の表情を見て、優は自然と言葉が溢れた。


「俺、絶対に期待に応えて見せます。お義父さんとお義母さんの大切な家族を、幸せにして見せます」

「そうか。頼むぞっ!!」

「ふふっ、今日からはあなたも家族よ?優くんっ」

「あはは、そうでしたね」


3人には絆が芽生え、互いに握手を交わした。


「よし!今日は飲むぞーー!!!!!死ぬまで飲むぞーー!!!!」

「お酒持ってくるわねー」

「いや死なれたら困りますって!!!」


和気藹々とした空気で昼からお酒が用意さら始めた。


だがただ1人、まだこの空気に馴染めていない人物が。


(…頭がくらくらするぅ…)


今回の話の重要人物である七海は、度重なる優の決意表明や七海への激賛により、頭の中がクラクラと回転していた。


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