21 入店したくないんだが
「よし、そろそろ行くか」
昼食を摂り、少しゆっくりしてからショッピングに戻る。
「うん、そうだね」
「次はどこ行く?」
「んーそうだね…」
歩きながらゆっくりと考えている。
するとある店の前で七海が足を止める
。
「えーっと、七海さん?流石にココは…」
「……」
無言で入店していく七海。
どうやら考え事をしているようだ。
そんな七海に優は着いて行かない。
なんでかって?
そりぁね…。
(下着屋…か…)
七海が入店したのは女性用の下着が売っている店だ。
流石に入店する訳にはいかず、外のベンチで待つことにする。
考え事をしていた七海がある下着を持ってこちらを向く。
そこでようやく優が店に入っていない事に気付き、優の元へ凄い勢いで来る。
「優くん、何で来てないの?」
「いや、だってさ…」
「いいから、早く来て」
「えぇ……」
嫌がる優の事を無視して凄い力で引っ張ってくる。
そして入店すると一面華やかでキラキラしている。
そして何より、周りからの視線が…。
想像通り変な目で見られているのですぐに逃げようとするが、七海に握られている手首にすごい力が加わってきて逃げることができない。
「ねぇ、これ…どうかな?」
そう言って見せてきたのはピンク色を基調とした華やかな下着。
(そんなん言われてもなんて言えばいいか分からんのだが)
発言によってはただの変態になってしまう。
なのでノーコメントで行きたいところだったのだが、しつこく感想を求められる。
「私が着てると…可愛いって思う?」
少し恥ずかしげに顔を隠しながら優に問いかける。
そんな顔されても答えたくない。
というか、答えれない。
なので目線を逸らして聞いてないフリをする。
そんな事をしていると横で七海が泣きそうになりながらボソボソと言葉を発す。
「(そうだよね私にはこんな可愛い下着似合わないよね当然だよねこんなの見ても興奮しないよね…)」
最後の方は聞かなかった事にして、こんな反応をされると流石に優も黙っていられない。
「えーっと…に、似合うと…思うぞ?」
そう言うと七海は嬉しそうな顔をして声を大にして優に迫る。
「そう⁉︎ホントに⁉︎」
「あ、ああ…」
「やったー!」
(欲しかったおもちゃを買って貰った小学生かな?)
まさにそういう感じの喜び方だった。
そして気付けば七海は試着室に向かっていた。
流石にそこに着いて行く訳には行かないので今度こそ店の外で待とうとするが、店員に止められる。
「お客様、良ければこちらでお待ち下さい」
「いやー俺は外で…」
「いえ!あんなに可愛い彼女さんを置いて外で待ってはいけません!」
「あ、ハイ」
彼女じゃ無いんだけどね。
完全に店員に押し切られてしまい、試着室の近くにあるベンチで待つ事になる。
「お客様〜サイズはいかがでしょうか?」
「うーん、少し胸がキツイですかね…」
「そうですか…こちらはどうでしょうか?かなり大きなサイズとなっておりますが…」
「あ、丁度いいです。これにします」
「かしこまりました〜」
耳を塞いで何とか聞こえないように努力する。
が、聞こえて来るものは聞こえて来る。
そして数分がたった後、七海と店員が出てきた。
「あ、優くん、決まったよ」
「あ、そうか….」
何だが気まずい。
多分そんな事を考えているのは優だけなんだろう。
だって七海は会話が聞こえていたなんて夢にも思わないだろうから。
なので七海と優との間で少し温度差が生まれるが、七海は全く気にすることなく上機嫌のまま店を出る。
「ありがとうございました〜」
「♩〜♪〜」
鼻歌を歌いながら軽い足取りで歩いている。
それに引き換え優は重い足取りでぐてーっと歩いている。
「優くん、どうかした?」
「いや…何でもない」
とにかく七海に楽しんでもらえるよう、少し明るく振る舞おう。




