205 涙を流して
「責任…?」
七海は優の不可解な言葉に疑問符を唱える。
その至極当然の疑問に、優は冷静な表情で答える。
「ああ、責任」
「それって一体どういう…」
七海はもう1度質問を投げかける。
そこで優は一瞬固まった後、勇気を振り絞ったかのように口を開いた。
「さっき、七海に恥ずかしい思いをさせてしまっただろ?それでさ…俺、色々考えたんだ。好きな女の子に恥をかかせてしまったままでいいのかって」
優は胸に手を当てながら説明をする。
「そこで1個だけ良い方法が思いついたんだ。こういう時に男が取るべき責任を」
優は顔を上げて自信を持ってその言葉を告げる。
「それは…こういう経験を何度でも出来る関係になること…かな…と思ったんだけ」
それはすなわち、何度でも裸を見れる関係になるということ。
…え?ちょっと待って。
それは一体どういうこと?
(つ、つまり…何度でも身体を重ねる関係…⁉︎)
冷静な判断ができなくなっていた七海は飛躍しまくった考えに至る。
(そ、それってつまり…)
七海は直感的に思ったことを口にする。
「…するの…?私たち…」
全身が熱くなっているのを感じながら、七海はそう言った。
すると優の顔も紅潮し、途端に目が合わなくなる。
そして数秒経った後、優は小声でその言葉の答えを出した。
「(まぁ、結果的には…そうなるかも、な…)」
「〜〜〜っ⁉︎」
優の言葉を聞き、七海は声にならない声を大きく発する。
(結果的にそういうことをするって…それってつまりどういうこと…⁉︎)
完全に脳がオーバーヒートしている七海は目をクルクル回しながら次の言葉を考える。
だがそれよりも早く、優が口を開いた。
「七海…」
優は目線をこちらに合わせながら話してくる。
「普通のお付き合いは、やめにしないか…?」
時が止まる。
七海の中の不安という2文字が、途端に全身に押しかけてくる。
(え…?お付き合いを…やめる…?それってつまり…)
七海は最悪の事態を想像し、焦るように優に問いかけた。
「わ、私何かしちゃったかな…⁉︎何か不満なところでもあった…??それなら直すからそれだけはっ__!!」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて…」
「え、えっちなことだっていっぱい頑張るから、お別れだけは__!!」
「七海…!!」
何も考えずただ別れたくない一心で物事を話していた七海に、優は両手を肩に当てた。
「違う、違うんだ…。そういう意味じゃなくて…」
「な、なら__っ!!」
「七海、1回落ち着いて。別れ話とか、そんなんじゃないから。むしろ…もっと前向きな、明るい話だよ」
七海はようやく正気を取り戻し、1度深呼吸をする。
「ご、ごめんね…。取り乱しちゃった…」
「いや、俺の言い方が悪かった。ごめんな」
一旦心が落ち着いたところで、七海は先程から気になっていたことを訊いてみた。
「えっと…前向きで明るい話って、何…?」
「それはな…」
優は気を取り直してもう1度目に力を入れた。
「七海。普通のお付き合いじゃなくて、もっと特別なお付き合いをしないか…?」
「…??」
七海は理解が追いつかずポカンとした表情を浮かべるが、優はそれに構うことなく続けた。
「桜庭七海さん。もしよかったら、如月七海になりませんか?」
脳に落雷が落ちる。
一体この人は、何を言ったのだろうか?
いや、そんなのわかりきっていることか。
だってそれは、自分が1番望んでいて、そして夢でもあったから。
七海は瞬時に言葉の意味を理解し、ついに涙が溢れてきた。
そして優はいつものような優しい笑顔でその言葉を告げる。
「七海さん。僕と、結婚を前提に付き合ってください」
七海は涙で前が見えなくなった。




