204 責任?
優が逃げるようにして身体を洗いに行った後、ただ1人温泉に浸かっていた七海は恥ずかしさの渦に飲まれていた。
(わ、私…あ、あんな恥ずかしい格好を…〜〜〜っ!!!!)
世界1好きな人物に自分の恥ずかしい部分を見られてしまい、七海の羞恥心は限界を超えていた。
(もうお嫁にいけない……)
殿方にあんなものを見せてしまっては、もう貰い手などいないだろう。
そう考えている時に、七海は天才的なことを思いついた。
(優くんに貰ってもらえば…!うん、それがいい…!)
そうだ。全てを見せてしまった人に貰ってもらえれば全て解決するのでは?
七海はそのような完璧な発想に至るが、これには大きな欠陥があった。
(でもあんな恥ずかしいのを見られた人と結婚だなんて…そんなの恥ずかしくて無理〜〜っ!!!)
そう、この点だけが唯一で最大の重大な欠陥であった。
だが裏を返せばそこだけ我慢できれば全て完璧な作戦であった。
(でも、私が我慢すれば…そ、そうだよっ…私が恥ずかしさを我慢して普通に接していれば…)
そんなの、出来るのだろうか?
………
いやできるわけがない。
そもそもこんなはしたない事をしてしまった自分を貰ってくれるのだろうか?
ようやく自分の失態に気づき、一気に不安な気持ちが襲ってくる。
(こんな私のこと…愛してくれるのかな…)
そして、少し前の自分の言葉を思い出す。
(…えっちなのは、私の方…)
自分の言葉がブーメランであることがわかり、さらに身体が熱くなる。
(ど、どうしよう…優くんに変なこと言っちゃった…私、一体どうすれば…)
温泉の暑さも相まって七海は冷静に考えられなくなり、ただ1人で今後について悩み続けた。
その後も2人にほとんど会話はないまま温泉から上がり、そのまま用意されていた浴衣に着替える。
そして部屋の端で小さく座り、今1度自分の失態についてよく考えた。
(私、なんてことをっ…)
顔を両手で押さえながら落胆し、さらに自信をなくしていく。
(ああもう、折角の楽しい旅行が…)
そうやって落ち込んでいた時だった。
「な、七海…。ちょっと、いいか…?」
優が顔を赤くしながら声をかけてきた。
優はかなりオドオドしていて、とても緊張しているように見える。
七海は何を言われるのかとドキドキしつつ、返事をする。
「い、いいよ…」
「ありがとう」
優は礼を言った後、七海の目の前で正座をする。
「さっきは…ごめん。本当に、悪意はなかったんだ」
それはわかっている。
優はそういうことをする人間ではないと。
でも問題はそれよりも前の話だ。
優が立ちあがろうとする前、七海はタオルがずれていることに気づかずに前傾姿勢をとった。
そしてその時に、胸の殆どが露出されていた。
それが七海にとっての1番の問題であった。
でも優にとっては違うらしく、反省したような目で話を続ける。
「でも悪意があったとかなかったとか、そういう問題じゃないよな。やっぱ、見られたってだけで嫌だよな」
「い、いや、そうじゃなくって…」
別に見られたこと自体は嫌ではないし、どちらかといえば嬉し…
(な、何考えているの私!!優くんがこんなにも反省してくれてるのに…!!)
七海は自分の中の邪な心を捨て去り、優の言葉を耳に入れる。
「七海がどう思っていたとしても、好きな女の子に恥ずかしい思いをさせてしまった。俺は男として、この出来事に責任を取らないといけないと思ってる」
「え…?」
「なぁ七海。俺に、責任を取らせてくれないか…?」
「え…」
優の言葉に、七海は世界が凍ったかのような感覚に襲われた。




