201 一緒はよくないんだが
長かった食事が終わると本命である温泉に入ろうという話になり、優は大浴場に行くための準備を整え始めた。
だがそこで七海は頭の上に?を浮かべる。
「ねぇ、もしかして、大浴場に行こうとしてる?」
「え?ああ、そうだけど…それ以外になくね?」
普通に考えて、こういう旅館に来たら大浴場に行くものでは?と思い、そのような発言をしたのだが、七海からは冷めた目を向けられる。
「…ちゃんと調べた?」
「う…あ…ごめんなさい」
「ふーん、そうなんだ」
七海は口を尖らせて眉間にシワを寄せた。
「じゃあ優くんはこの旅行が楽しみじゃなかったってこと?楽しみにしてたのは私だけってこと?」
七海は鋭い言葉を突き刺してくる。
そしてそれは優の胸を貫通し、思わずその場に倒れ込んでしまう。
「ご、ごめん…正直、楽しみじゃなかったんだ」
「ふ、ふ〜ん…」
七海は目の光沢を失うが、それを輝かせる方法を思いついている優は堂々と七海に語りかける。
「俺はこの旅行が…滅茶苦茶楽しみだったんだ!えぇそれはもうつい下調べを忘れてしまうぐらいに!!」
「え…?」
七海は少しずつ目の輝きを取り戻し、興味津々に見つめてくる。
「ほ、本当…?」
「ああ、本当」
「そ、そうなんだっ」
七海は嬉しそうな、けれども恥ずかしそうな顔をして優の心を掴み取る。
(この顔を見るために俺は生まれてきたんだろうか)
などというふざけた想いが脳内をよぎるが、あながち間違いではない気がしてきて萎えそう(?)である。
まあこれらは一旦どうでもいいとして。
それよりも先程からずっと気になっていたことを七海に訊いてみる。
「で、その…大浴場以外に温泉があるのか?」
七海は先程それっぽい発言をしていたため、優は脳の端の方でずっと気になっていた。
まあそこそこ有名な温泉旅館らしいし、いくつかあってもおかしくないか。
そんなことを考えていると、七海は頬を紅色に染めながら笑顔で答えてきた。
「うん…いくつかあるよ…。ほら、そこの扉を開けた先にも…」
そう言って七海は部屋の奥の方の扉を指差した。
優は内心疑いながら扉を開けると、そこには一瞬言葉を失ってしまうほどの景色が広がっていた。
「……嘘、だろ…?」
それはもう、2人で入るには完璧な露天風呂で。
この状況、もしかして非常によろしくないのでは?
直感的にそう思った時にはもう遅かった。
「さ、早く入ろ?私ずっと楽しみにしてたんだっ」
「そ、そうか?なら…先にどうぞ…」
優は逃げるように七海を1人で露天風呂に入れようとするが、当然逃れられるわけがなく。
「何言ってるの?一緒に入るんだよ?」
「い、いや別々の方が__」
「折角2人で入りやすいように用意されてるんだし、一緒に入ったほうがいいと思うな。ここまで丁寧にセッティングされている露天風呂なんてなかなかないと思うし」
いやセッティングされているのが1番の問題な気もするが。
だが七海はそれが気に入ったらしく、是が非でも一緒に入るために禁断の手段を使ってきた。
「それにここの温泉はカップルにとって最高の効能があるんだよ?」
「へぇ…」
少し気になるな。
少し、少しだけ。
大体何を言われるかわかっているから訊かないけれども。
そんなわけで優は知らんふりをしていたのだが、七海は何かを言いたそうに口を耳元に近づけてくる。
「(あ、あのね…この温泉には…こ、子供ができやすくなるっていう効能があるんだよ…♡?)」
うん、予想通り。
でも、この予想は当たってほしくなかった。
だって子供だよ?
どう考えても気が早すぎるでしょ。
…………
これじゃいつかは七海と子供を作るみたいな意味になってしまうか?
(あ゛ぁぁぁぁ!!!!落ち着け!!世界平和について考えるんだ!!!)
予想通り優の心は乱されまくり、そこからはまともな判断ができなくなった。
そして優は七海との混浴に承諾し、脱衣所に足を運んだ。




