200 もったいない
で、あれからも色々な店を回ったわけだが。
なんか気づけば優も浴衣を着せられていて、七海と2人仲良く過去の日本に来た気分になった。
2人は手を繋いだまま食べ歩きをし、旅行をじっくり堪能した。
そして夕方になる前に浴衣を返却し、いよいよ本命の温泉旅館にチェックインした。
「お待ちしておりました。こちらです」
どうやら貰った宿泊券はそこそこいいものらしく、旅館の人が丁寧に案内をしてくれる。
「では、ごゆっくりどうぞ」
「「ありがとうございます」」
2人は靴を脱いで早速部屋に上がる。
「おぉ〜っ!広いね〜!」
部屋はかなり広く、頑張れば10人ぐらい寝れそうな広さであり、2人で寝るにしてはかなりの余裕があった。
「…」
「優くん?どうかした?」
「ん?あ、いや…」
優はあまり乗り気ではなかった。
その理由は?
そんなの2人部屋だからに決まってるでしょ。
別にカップルなんだからよくね?という話なのだが、このカップルに関しては例外だった。
(耐えれる自信ねぇ〜っ!)
これは完全に優の予想なのだが、七海は間違いなく誘ってくる。
いや、誘ってこなかったとしてもこのシチュエーションで耐え切れる自信は今の優には無かった。
だって、この空間には2人しかいないんだよ?
前に家に止めた時とはわけが違う。
だから優は心臓のドキドキが収まらず、目が行ったり来たりしている。
流石に七海も異変を感じ、近づいて様子を確認しに来る。
「顔、赤いね…。風邪でもひいちゃった?」
「え⁉︎い、いや、大丈夫…だけど」
「そう?ならもしかして…ドキドキしてる…?」
「…っ!!」
「あ、図星だー♡」
ヤバい。
このままでは七海に手綱を握られてしまう。
流石にそうなったらどうすることもできないので頑張って話を逸らしてみる。
「そ、そろそろ腹減ったなぁ…。なんか頼もうぜ」
「むぅ…いいよ…」
露骨に話を逸らされたことに対して不満を覚えて頬を膨らませているが、その反応は無視して電話機を取る。
そのまま食事を注文し、何事もなかったかのように荷物を整理し始めた。
その間も七海は少し拗ねたような顔をしていたが、それは七海の方を見ないことで解決できる。はず。
そして待つこと30分、ようやく料理が到着し、机の上に豪華な料理が並べられた。
「お、おぉ〜!美味しそうっ!」
「…だな」
七海は先程の拗ねがなかったかのように目を輝かせている。
それを見て優はチョロいななどと思ったが、それは胸の中にしまっておく。
「それじゃあ早速、いただきますっ」
「いただきます」
七海は楽しそうに料理に箸を伸ばし、豪快に頬張る。
「んん〜〜っ!!おいひぃ〜」
(__っ!!可愛いっ!!)
七海の幸せそうな笑みを見て、大好きな食べ物を思い切り食べる子供を見る目で見てしまう。
(いかんいかん…このままじゃ七海に全部食べられてしまう)
放置しておけば全て食べられてしまいそうな勢いだったため、優は七海の表情をおかずにしながら料理を口に運んでいった。
「ん!うまいなこれ!」
「だよねぇ。あ、こっちも美味しいよ?」
「そうこ?なら一口…」
「はい、あーん♡」
七海は箸を優の口元まで持っていく。
「ん?いや自分で食べれるが?」
「ううん、私が食べさせてあげる♡」
七海は強引に箸を口に押し付けてくる。
ここまで来てしまったのならもう同じだろうと思い、優は口を開けた。
「ふふっ、間接キスだねっ」
「あはは…そっすね…」
「で、でも私たちはもう…キス、してるからね…。コレぐらいなら、大丈夫…だよね?」
「ゔっ…!」
別に全然全く大丈夫ではないし、ここで首を縦に振ると七海が吹っ切れて毎回あーんをしてくる気がする。
なので優は頑なに首を縦には振らず、ただ料理の味に集中した。
味は、全然しなかったけどね。
もったいない。




