02 両手が花なんだが
「えっと…とりあえず学校に向かいましょうか」
このどうしようもなく凍りついた空気の中、妹の如月有咲が何とか空気を和まそうとしている。
そもそも、なぜ凍りついているのかと言うと、あれは2分ほど前の話。
「いやいやいやいや、おままごとの告白を本気にされても困るんですけど!?」
「なんで!?私はこんなにも君のことが好きなのに!!!!」
「エエ?ソウナノ?いや待て、普通に考えて順序というものを飛ばしすぎてるって」
「そんなことないよ。私達には順序なんて必要ない。愛さえあればいいんだよ?」
「いや愛って…そんなん重すぎて無理…」
「えっ……」
そして現在に至る。
桜庭七海という少女は、間違いなく如月優のことを好きなのだろう。
いや、愛しているのだろう。
その想いを否定されてしまったので七海は落ち込んでしまい、優はなんとなく罪悪感に駆られている。
流石に見ていられず場を和まそうとするが、有咲にはそんなことは出来なかった。
有咲でなくてもこの空気はどうしようもないのだろう。
とうとう有咲も凹み出したので、流石にマズいと優が話しかける。
「あの〜七海サン?さっきはゴメンなさい。でも…さ?いきなり愛とか言われても正直愛なんてよく分からないっていうか…その〜」
「うん…そうだよね…いきなり愛なんて言われても分からないよねそうだよね私の気持ちなんて邪魔だよね?うんいいの急に愛してるとか普通に怖いよねそうだよね……」
急に早口でボソボソと話し出したので若干恐怖を覚えたが、とりあえず七海のこの状況をどうにかしなくては。
「えっと…とりあえず学校行くか!」
どうにかできるのならとっくにしてる。
とりあえずここは現実逃避をしておこう。
(あ、鳥さんだー)
完全に上の空になっている兄に呆れつつ、有咲が七海をなだめようと試みる。
「七海さん?多分、お兄さんは恥ずかしがっているだけです。本当は七海さんのことを好いているのですよ?」
「え?そうなの?」
(何言っちゃってんの!?そんな事実は存在しないよ!?)
しばらく七海に見つめられるが、どうすればいいか分からないので、有咲の方を見てみる。
すると有咲は話合わせてと言わんばかりのポーズを取っている。かわいいな、そのポーズ。
多分優以外の人間には理解不能のポーズだが、優には理解することが出来た。
「ま、まぁ〜そうかもね?」
少し濁らせ気味に答えるが、今はそれで満足なようで、先程とは一転して弾むようなステップで歩き出した。
しかし、ここでひとつ問題が。
(視線の量倍増してない?)
なんか周りにいる人が全員こちらを見ているぐらいの勢いだ。
原因は明確だが。
右には白銀の髪をなびかせ、吸い込まれる紅の瞳を持つ絶世の美女が居る。
左には小柄の清廉潔白な美少女。
真ん中にはだらしなさそうな男。
どう考えてもおかしいな、この状況。
完全に釣り合っていない。
優は考える。何とかこの視線から逃れる方法を。
そして考えること5秒。
優は結論にたどり着く。
「逃げるぞ!」
2人の手を取って走り出す。
優のその行動に2人は驚いた表情で呟く。
「え?お兄さん?急にどうしたのですか?」
「もうっ、そんなに強引にしなくても君ならいいのに♡」
右からちょっと意味がわからない言葉が飛んできたが、無視しながら学校に向けて走る。
もういいや。
もうどうにでもなれ。
そんなことを思いながら全力で学校目掛けて走る。
なお、後で有咲に怒られた。
シンプルにあまり足が早くないのでついていけなかったからだ。
それに関しては優も謝罪し、許してもらった。
そして、優と七海の高校生活が幕を開ける。