199 旅の始まり
目的地に到着し、2人は電車を降りて駅から出る。
「うわぁ〜!すごいねぇっ!」
「うん、これはなかなか…」
駅を出た途端にガラッと雰囲気が変わり、日本の伝統を感じるような建物が多く並び、とても風情を感じる。
そんな美しい伝統的な景色を目に入れながら空気を思い切り吸い込んでみる。
「ん〜っ!空気うまいな!」
「ん〜っ!確かにっ!向こうとは全然違うねぇ」
やはり都会よりはこういった自然が豊かな方が空気が澄んでいて美味しいらしい。知らんけど。
そんな調子で2人は街を探検しようとした時に、七海がある看板に目をつけた。
「浴衣…っ!」
「?」
七海が見つめる看板には浴衣貸し出し可の旨が書かれていて、七海は興味津々にそちらを見ている。
「浴衣かぁ」
「ね、ねぇ…着てもいいかな…?」
「ん?あ、ああ。もちろん」
七海は軽い足取りで店の中に入って行った。
その姿を見送った後、優は店の前のベンチに座って七海の着替えを待った。
やはり着付けには時間がかかるのか、七海はしばらく経っても出てくる気配がない。
流石にこのままでは暇すぎるので、優は脳内で七海の浴衣の予想大会を始めた。
(浴衣といえば、やっぱ花柄かな…。どんな色だろうなぁ。七海なら何の色でも似合いそうだけど。赤?青?紫?白?)
でも強いて挙げるなら…
(白と赤…とか…?)
優の脳内には白を基調とし、所々に赤い花が咲き誇っている浴衣を着ている七海の姿が映った。
(ん〜…これが優勝だな。七海の髪の色と瞳の色。うん、それが1番綺麗だな)
優は七海の輝く白い髪も吸い込まれるような赤い瞳も、心から綺麗だと思っている。
七海がそんな色の浴衣を着たのだとしたら、似合わないわけがない。
優は自分の心の中で1つの結論に辿り着き、満足そうに首を縦に振った。
「あ、彼氏さん?中で彼女さんが待ってますよ〜っ」
とそこで店員と思わしき女性に声をかけられ、案内されるままに店内に入った。
1つの扉の前に着くと、店員さんはノックをして中の人を呼んだ。
「彼氏さん来ましたよ〜。入ってもいいですか?」
「あっ、はいっ」
扉の奥から聞こえてくる少し慌てたような声を聞き、店員さんは扉を開けた。
「さぁ、どうぞ」
「ども」
優は靴を脱いでその和室の中に入って行った。
そしてそこにいたのは、大輪の花よりも美しい絶世の美女だった。
「…っ⁉︎」
「ど、どう…かな…?」
その美女は綺麗に化粧をした真っ白な肌を赤く染め、恥ずかしそうにこちらを見上げてくる。
(くっ…!それは反則だろっ…!)
あまりに美しいその姿に、優はまるで雷に撃たれたかのような気持ちになる。
(か、可愛すぎるっ…!)
優の予想通り七海の浴衣は白を基調として所々に赤い大輪の花が咲いている。
あまりにも眩しいその姿に、優は七海を直視できなくなる。
「や、やっぱり似合わないかな…?」
こちらが目を逸らしているのがバレたのか、七海は少し不安そうにそのような言葉を漏らした。
だがそれは全くの誤解であるので優はすぐに弁明を図った。
「い、いや、違くて…。その、可愛すぎて…あんま見れないっていうか…」
「っ…!!〜〜〜っ!!」
優の言葉を聞いた瞬間、七海は声にならない声を漏らした。
そこから幾分か間を置いた後、七海は背伸びして耳元に口を近づけてきた。
「(ゆ、優くんのために綺麗にしてもらったんだから…もっといっぱい見て…?)」
「__っ!!」
吐息をかけられながらその言葉を聞き、優の心は大きく跳ねる。
そしてそこからどうすればいいかわからなくなり、優が何かしようとあわあわとしていると、扉からこちらを見ていた店員さんが声をかけてくれた。
「ふふっ、仲がいいのですね〜。羨ましいですっ」
「あ、あはは…そうっすねぇ…」
「うぅ…恥ずかしい…」
「ま、まぁお気になさらず…!さぁ、せっかくですし、そろそろ街を観光されては?美人な彼女さんがいれば、いろんな人に見られちゃうかもですけど」
「あはは…そっすね…。じゃあ、行くか」
「うんっ」
そこで七海が腕を組んできて、店員さんから微笑ましい目を向けられたのは流石に恥ずかしかった。




