194 いい案だわ〜
「お、おめでとうございます!!!1等です!!!」
「あらぁ…」
晩秋の商店街で買い物をし、1枚だけもらった福引券で少し運試しでもして帰ろうとした時だった。
奈々は想定外の引き運を発揮し、周囲からの視線がこちらに集中する。
「す、少し恥ずかしいわね〜…」
奈々は引き攣った笑みを浮かべながら景品が来るのを待つ。
「ではこれ、温泉旅館のペア宿泊券になりまぁ〜す!」
「ぺ、ペア…ですか…」
奈々は1枚のチケットを受け取り、少し考え事をしながらその場を去った。
「ありがとうございましたぁぁ!奥さん!楽しんできてくださ〜い!!」
「は、はい…!」
無駄に大きな声で見送られ、奈々の羞恥心が増して早歩きになる。
そのまま少し離れたところまで歩き、丁度いいベンチに腰掛けた。
そこで先程受け取った宿泊券をもう1度眺め、眉間にシワを寄せる。
「ペア…ね…」
そう、この宿泊券は2人1組で使うもの。
つまり、もう1人相手を探さなければならない。
「あと1人…」
でも実際のところ、あと1人を誰にするかと言われれば当然夫にするに決まっている。
でもそれは果たしてどうなのだろうか。
(優と有咲は連れて行けないのよね…?)
流石に可愛い子供達を置いて旅行になど行けるはずもない。
(う〜ん…でも…たまには2人で…)
思い返してみると、最近2人で旅行に行った記憶が存在しなかった。
それは当然、子供達も連れて行っているからだ。
だから久々に2人で行くのもいいのでは?と考えるようになる。
(でも流石にそんなこと…)
どうすればいいのかわからない。
どれが正解なのかわからない。
でも奈々でもわかっていることが1つだけある。
それは、自分がド天然でポンコツであるということ。
なんでそんなことを自覚しているのかって?
それは…散々家族に言われてきたから…だよ…。
なので奈々は自分に完璧な答えなど出せるはずもないと思い、黙って優希に相談することにした。
◇
「…というわけなのだけれど…どうすればいいかしら?」
家に帰ると、奈々は速攻優希のもとに向かって指示を仰いだ。
「う〜ん…そうだなぁ…」
だが優希もこの問題には頭を悩ませているようで、腕を組みながら首を斜めに向けている。
「言われてみれば確かに最近2人で旅行に行けてなかったなぁ…幸せすぎて全然気づかなかったよ」
優希の言葉通り、家族達と過ごす日々は幸せ以外の何物でもないし、当然家族旅行も最高に楽しかった。
でもやはり、折角夫婦なのだから2人きりで旅行に行きたいという気持ちが湧いてくる。
それには優希も賛成のようだが、やはり子供達を置いて行くのはという思考になってしまう。
だから普段決断力のある優希もかなり頭を悩ませている。
そんな優希の悩ましい表情を見て、奈々はある事を思い出した。
「そういえば…七海ちゃんが前に【温泉旅行に行きたいと思っているのですが、その時に優くんを借りて行ってもいいですか?】って言っていたような…」
「……っ!!それだ!!!」
奈々の言葉を聞き、優希は突然身を乗り出して接近してきた。
「じゃあとりあえずこの宿泊券はお若い2人にあげてしまおうか。流石に学生の2人じゃ旅行なんて金銭的に難しいだろうし」
「そうね〜。うん、それがいいと思うわ」
優希の意見に、心底賛成する。
だが、まだ奈々の心は満たされていない。
「………」
「そうだなぁ…」
「…?」
「今度、2人でどっか旅行行くか?優と有咲は実家にでも預けて」
「え…?」
心を見透かされたかのように優希に完璧な意見を提示される。
「い、いいの…?」
「ああ、勿論。最近は奈々のそばにいてあげられてない気がするし、これぐらいはさせてくれ」
「あ、ありがとう…。でも、仕事は大丈夫なの?最近忙しそうだけど…」
「ん〜…まぁ、何とかするわ。死ぬ気で休み取ってくるわ」
優希の旅行に行きたいという意志を感じ、奈々はつい笑みが溢れる。
「ふふふ…ありがとう」
その綺麗な笑顔に、優希も笑顔を向ける。
「どういたしまして。いっぱい楽しもうな」
「うんっ!」
奈々は優希に思い切り抱きつき、そのまま唇を交えたとか。
それが終わった頃に、優希は思い出したかのように大切なことを呟いた。
「有咲を…どっかに連れてってやらないとな…」
このままでは有咲だけ旅行に行けないようになることに気づき、優希は「(これ以上休み取れるかな…)」などという憂鬱な言葉を漏らしたのだった。




