190 危機を感じるんだが
あれから数分じっくり考えた後、優はとうとう答えを出した。
「……よし……全部…行くか…」
結構躊躇いながら無理矢理その言葉を口にすると、七海はパァッとした喜びの表情を浮かべ、両手を握りしめてきた。
「本当ッ⁉︎ありがとうっ!!!」
(うっ…クソ可愛いなこのヤロ〜…!!)
そんな表情をされたらもう後には引けない。
優は未来の自分に謝りつつ、「仕方ないだろ!」などという言い訳を付け足しておいた。
「ふふっ、楽しみだな〜。特に温泉旅行♡一体何されちゃうんだろう…♡」
いや何もしないけどな?
というか、そんなものまであったのか。
実のところ、七海の行きたいところが多すぎて途中から七海の声が片耳から片耳に抜けていっていた。
なので旅行の話など完全に想定外で、優は完全にしてやられたという表情となる。
(俺…耐え切れるかな…)
今までの経験上、多分他にもこんな感じのやつがあるだろう。
でもそんなやつが沢山あったら、色々抑え切れる自信がない。
(ごめん、未来の俺っ!!!何とか頑張ってくれっ!!)
自分の失態を未来の自分に丸投げし、優は一旦冷静になり、ウキウキの七海に話しかける。
「そ、それはひとまず置いておいて、とりあえず今月分の予定でも決めようか」
「そうだねっ」
2人でテンションが全く違うが、とりあえず話し合いが開始した。
「う〜ん…この時期だと…あ!お花見とかっ!」
「あ…それは…」
「ん?もしかして、先約が…?」
「ああ…実は土曜日に家族と行くことになっててだな…」
「なるほど…じゃあ、日曜日にもう1回私とお花見しよー!」
「えぇ⁉︎」
いや普通諦めるだろぉ…。
しかもよりによって2日連続にするなんて…。
まぁそれ以降となると流石に桜が散ってしまうから仕方ないのはわかるけども。
優は少しの間考えると、革命的なアイデアが思いついた。
「七海が俺らと一緒に行けばいいんじゃないか?それで万事解決__」
「それもいいけど、私は2人きりでデートがしたいの。だから却下」
七海は少し口を尖らせたまま続ける。
「それに私、最近如月家のイベントに混ざりすぎだと思うの。そろそろ家族水入らずでイベントを楽しんだ方がいいんじゃない?」
「た、確かに…」
親が七海のことを完全に気に入っているため、毎回のように七海を家族イベントに誘っている。
それに七海は喜んで参加し、有咲が少しムスッとしたり。
そんな感じの出来事が今までに何度もあった。
流石に七海も申し訳なくなってきて、このような提案をしてきたのだろう。
(クソッ!これ断れねぇじゃん!)
七海とはお花見に行きたいし、家族とも行きたい。
一緒に行こうにもこのような理由があっては流石に別々に行かざるを得ない。
「じゃあ…日曜日に…2人で行くか…」
「うんっ!」
渋々首を縦に振り、デートの約束ができてしまう。
でもそれだけでは終わらない。
「来週はどこに行く?♡」
「ゔっ…」
この人、やっぱり毎週デートしないと全部行ききれないことをわかってやがる。
でないとこんな話にはならないだろうし。
優は手のひらの上で踊らされていたことに気づき、頭を抱えて落ち込む。
「私はねぇ…」
そんな優とは裏腹に、七海は楽しそうに行きたい場所をいくつか挙げ始めた。
その圧倒的な数の多さに、優はまたしても現実に引き戻される。
(こんなのやっていけんのかぁぁぁぁっ!!!)
2人の熱量の違いに、カップルの危機を感じた。




