189 流石に多すぎるんだが
「ねぇ、ちょっと寄り道しない?」
その日の放課後、有咲を家に届けて2人きりになった時に七海にそう提案された。
「いいよ」
特に断る理由もないので、優はあっさり承諾した。
「じゃあ、あのカフェ行かない?」
「おっけい」
七海が指差したカフェに2人は入り込んだ。
「ふふふっ、デートだねっ♡」
「まぁ…そうなるかもな…」
案内された席に座ると、七海は嬉しそうに微笑んできた。
「こうして2人でゆっくり話すの、付き合ってから初めてじゃない?」
「確かに言われてみれば…」
そう、実はあれから1度も2人きりになったことがない。
電話もしてなければデートもしていない。
いつもの七海ならもう5回はデートに誘ってきているだろうな。
何か心境の変化があったのだろうか。
まあ、あっただろうな。
あれだけの出来事があって変化がない方がどうかしてるな。
まあそんな風にして七海が変わったのは嬉しいが、その反面嬉しくないこともあった。
それは当然、デートのお誘いが減ったということだ。
減ったというか、無くなってしまったので優は少し悲しみを覚えていた。
そんな中でのカフェへのお誘いに、優は内心ウキウキのまま飲み物を注文した。
「ふふっ、優くんも嬉しそうでよかった」
「なっ…なんでそう思うんだ?」
「誤魔化さなくていいんだよ?ずーっと顔に出てたからね」
(なん…だと…っ!!)
まさか自分がそこまでわかりやすい人間だったなんて。
優は自分に落胆しつつ、羞恥心で顔を赤くしていた。
そんな優を見て、七海はもう1度嬉しそうに笑いかけてきた。
「ふふふ、そんなに恥ずかしがらなくていいのに。私は嬉しかったよ?優くんに喜んでもらえて」
七海は優しく言葉をかけてくるが、やはり恥ずかしいままで。
優は顔を隠すように手を当てたまま飲み物が来るのを待った。
その間何度も七海に微笑ましいものを見る目で見られたが、そこは気にしないようにして。
そのまま数分が経った時に飲み物が到着し、早速七海が話し始めた。
「さて、今日は話したいことが色々あるの」
「ほぉ…それは一体…?」
「それは…私たちの今後について…だよ…」
七海はわざとらしく真剣な表情を作って話してくる。
「私たち、付き合い始めたのにデートにも行ってないでしょ?これは夫婦の危機だと思うの」
最後の方は聞こえなかったとして。
確かに、このままではいけないと思っている。
こうやって2人の時間を作らずに自然消滅していくカップルだっているだろうからこそ、この事態は見過ごせない。
なので優もこの話題に関して真剣に考える。
「そうだなー。じゃあ、デート行くか…?今週の休みにでも」
「うんっ!そうしよっ!!」
七海は満面の笑みを浮かべながら大きく返事をしてくる。
そんな七海を(可愛い)などと思いながら見つめる。
「で、どこに行く?」
「あっそうだ!今日その話をしようと思ってて…」
七海はウキウキで話を続ける。
「優くんと一緒に行きたいところがいっぱいありすぎて決めれなくて…だから、今日直接決めてもらおうと思って!」
「ほぉ…」
「じゃあ、読み上げていくね」
七海はスマホを見ながら自分がデートで行きたいところを綴っていった。
その圧倒的な量の多さに、優は頭が回らなくなった。
「…がいいかなって思ってるんだけど…どうかな…?」
「ん…?あ、ああ…」
ど、どうしようか。
デートに行きたい気持ちは強いのに、流石にこの量ともなると流石に気が引けてしまう。
でもどのデートプランも魅力的だし、七海と2人で様々なところに行けるなならとても幸福だと思う。
でも…全部行ってたら多分毎週休日返上になってしまう。
(クソ…どうすれば…!)
優は休みとデートを天秤にかけ、慎重に選別をしていった。




