188 モテてないはずなんだが
結局謎の小競り合いは終わらず、七海と有咲はギスギスした状態で学校の門を潜った。
「じゃあ、この続きはまた放課後ね?」
「ええ、いくらでも受けて立ちます」
2人は一時停戦を言い渡した後、それぞれの教室に向かった。
七海と優が2人きりになると、七海は露骨に愚痴を漏らした。
「まったくもう、迷惑しちゃうよねっ」
「あー…そっすね…」
いやこっちもめちゃくちゃ被害被ってるんだけどね。
などとは言えず、適当に共感しておく。
2人はその調子のまま教室の扉を開き、いつも通り入室した。
そしていつものように挨拶をしようとした時、クラスメートの数人が勢いよくこちらにやってきた。
「ふ、2人とも付き合い始めたって本当⁉︎」
「如月くんが告白したんだって⁉︎すごいね!!」
「如月っ!!お前だけは信じてたのにっ!!」
「え、えっとこれは一体…」
まだ親しい友人にしか話していないはずの話が広まっていて、2人は頭の上に?が浮かぶ。
「ど、どうしてみんなそのことを…」
「ん?ああ、それはね…」
「泰明がこの前のクラス会の帰りに教えてくれたんだよ。折角みんな集まってたんだから自分の口から言ってくれればよかったのに」
「泰明か…」
優は泰明にゴミ以下の存在を見る目で見つめる。
一瞬目が合ったが、泰明は焦るように目を逸らした。
(覚えてろよ…)
優は鬼の形相で泰明を睨みつけた後、視線を近くのクラスメイトの方に向けた。
「もっと詳しく話聞かせて!」
「七海ちゃんはいつから如月くんのことを?」
「如月くんのどこが好きなの??」
「ど、どうしよう…」
七海が震えた声で訊いてくるが、正直対処法などわかるわけもない。
なので優は頭をフル回転させて思考を回す。
(この場を収める方法…いっそ全部話してしまうとか?…いやいや、それは恥ずすぎるわ)
様々な案を出しては否定されてを繰り返す。
そうして頭を悩ませている時、集まっているクラスメイトの後ろの方から少し大きめの声が上がった。
「みんな!2人とも困ってるよ!だから、とりあえず一旦は解散しよ!」
クラスのまとめ役の璃々が背伸びをしながら生徒に呼びかけ、人だかりはすぐになくなった。
「あ、ありがとう璃々ちゃん…」
「あはは…災難だったね〜…」
「何でこんなことに…」
「でもまぁ、いずれはこうなってたんじゃない?学内1の美少女が付き合うってなると、どのみち騒ぎにはなってたと思うよ?」
「ま、それは言えてると思うな」
普通に考えて七海ほどの美少女のことが好きな連中なんていくらでもいるのだから、パッとしない男と付き合うとなると遅かれ早かれ騒ぎになることは確実だろう。
「(流石は美少女)」などと呟くと、璃々から少し呆れたような目を向けられた。
「…如月くんはあまり人のこと言えないと思うけど?」
「はい?」
璃々からのあまりにも想定外の言葉に、優はガチトーンの疑問符が出てしまう。
「だって最近の如月くん、どんどん男前になってるからね。ここだけの話、如月くんのこと狙ってた女子も何人かいたんだよ?」
「ふぇ…??」
「そ、そうなんだ。でも、そうだよね。優くんは元から温厚で優しいし、それに見た目まで良くなってきたんだからそりゃモテるよね」
突然モテモテの2人から褒められて反応に困る。
そんな優の挙動不審な姿を見て、璃々はクスクスと笑った。
「ふふっ…でも、2人が付き合えて本当に良かったよ。私の中では2人がベストカップルだったからね」
「そ、そうなのか…」
「ふふっ、そうだよっ。だから2人は周りの目なんか気にせず自信持って『俺たちは付き合ってるんだぜー』ってアピールしていけばいいよ!」
璃々の謎に説得力のある言葉に感化され、2人は頷いた。
「頑張ってみるよ…」
「うん…。頑張ろうねっ」
2人が目を合わせて頷き合った時に、始業を告げるチャイムが校内に響いた。




