187 予想通りなんだが
あれから2人には特に進展がなく、そのまま春休みが終了するまで時が流れた。
「「いってきます」」
優はいつものように有咲と家を出る。
「おはよう2人とも」
「お、おはよう…」
「おはようございます」
いつものように七海と挨拶をし、そのまま学校に向けて歩みを進めた。
ここまではいつも通りの流れだが、ここからはいつもとは違う流れになる。
「あれ?七海さん、少し距離遠くないですか?」
「ん⁉︎そ、そうかなぁ…?」
「はい。2人は付き合っているのですから、もう少しくっついてはどうでしょうか?」
そう、優と七海は晴れて恋人になった。
それが今までとは違うこと。
そしてその影響で2人は微妙に近づきにくくなっている。
理由は単純に異性として意識し始めたからだろう。
別に前からある程度は意識していたが、恋人になってからその意識が想定外な程に大きくなり、今現在恥ずかしくて近寄りにくくなっていた。
今まで2人の行動を1番近くで見ていた有咲はそのことを即座に察し、呆れたようにため息を漏らした。
「恥ずかしいのはわかりますけど、ようやく合法的にくっつけるようになったのですよ?前までの七海さんなら合法になった瞬間抱きついてますよね?」
「ゔっ…」
七海の心にクリーンヒット。
七海はそのまま暗い表情でしょんぼりと顔を下に向けた。
(妹よ、もうやめてやってくr__)
「お兄さんもですよ?好きな人と付き合えたというのに手の1つも出さないなんて、本当に男子高校生ですか?」
「ゔっ…」
どこで覚えてきたんだそんな言葉…!!
普段のお淑やかな有咲とは打って変わって論破厨になり始めている…!!
このままでは七海によくないし、それよりも有咲が変な方向に行ってしまいそうで色々マズイ。
優は何とかこの場を鎮めようと、弁明を試みる。
「カップルにはそれぞれのペースがあるからな…?俺たちはちょっと控えめなだけなんだよ…な?」
「え…?う、うん…!」
「ふーん…」
有咲に疑いの目を向けられる。
「今までの2人の様子から考えて、今のこの状況は明らかにおかしいと思います。七海さんなんて、前まではアツアツでしたのに…」
「ゔっ…」
クソなんでこんなに手強いんだ…!
別れさせたいのか…⁉︎
……………
ワンチャンあるなそれ。
だってこの人相当なブラコンだし。
そう思うと有咲のことが駄々をこねている子供のように見えてきた。
優は優しい目で優しく頭を撫でて優しい口調で言葉をかける。
「有咲、言いたいことはよくわかったよ。でもな、やっぱり恋っていうのは人それぞれなんだ。だから、あんまり意地悪したらダメだぞ?」
「なっ__⁉︎」
有咲はムッとした表情で言い返そうとするが、それは頭を撫でることによって抑えることに成功した。
「うぅ…ご、ごめんなさい…」
「うん、ちゃんと謝れてえらいぞ!」
「あはは…」
ガッツリ子供扱いされている有咲に七海は苦笑いを向ける。
「本当に優くんのことが好きなんだね」
「もちろんですっ!お兄さんを好きだという気持ちなら誰にも負けませんっ!」
有咲はわかりやすく七海に喧嘩を売った。
これはマズイかもしれない。
「いいや、私の方が優くんのことを好きに決まってるよ!だって私は恋人なわけだし!」
「いいえ!私の方がそばにいた時間は長いですし、お兄さんのことなら全て知っています!」
ほら予想通り。
2人のいつも通りの言い合いが始まってしまい、優は肩身が狭くなる。
(どうすればいいんだよぉぉぉぉぉっ!!!!!)
身体を小さくしたまま心の中だ高々と叫ぶが、その声は誰にも届かなかった。




