184 夢
数秒後、2人の唇が離れ、互いに見つめ合う。
「ふふっ、キス、しちゃったねっ」
七海は嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、そうだな」
優も笑顔を返し、そこで七海は優の隣に行き、バッチリと恋人繋ぎをしてきた。
「ずっと待ってたんだからねっ」
「あはは…ごめんな」
七海は少し拗ねたような口調で話してくる。
「まったくもう…鈍感すぎたよ?」
「いや〜そっすかね…」
「そうだよ。女の子が好きでもない男の人にあそこまでアピールしないよ?」
「あはは…確かに…」
うん、まぁそれはそうか。
好きでもない男にあそこまでスキンシップしてる奴がいたら結構ドン引きだな。
今思うと、どうして気づかなかったのかわからない。
いや、気づこうとしていなかったと言った方が正しいか?
いずれにしろ、もう過ぎた話だ。
今は未来のことを考えよう。
「次からは気をつけるよ。ちゃんと、気づけるように…」
「うんっ!ちゃんと私の好きだって気持ちに気づいてね?」
「ああ…努力する」
もう恋人なのだから、七海の好意を素直に受け取れる。
そうなることを信じ、優は七海の家に向かった。
「じゃあ、今日はお別れだね」
「そうだな」
七海の住むマンションの前に着き、繋がれていた手が離れた。
「今日は、本当にありがとう。私、夢が叶ったよ」
「ははっ、それはよかった」
「そろそろ次の夢を探さないと…って、もうあるんだけどね」
「お、気になるn…やっぱいいや」
一瞬で七海の夢を察し、何とか回避を図る。
「ん?どうして?」
「いや、別に…」
「聞きたくないの?」
「うーん…今はいいかな…」
「そっか…。うん、これは…まだ早いからね。でも、いつかはちゃんと聞いてもらうからね?」
(いつか…か…)
そうだ。
いつかそういう話をできるぐらいの関係になっていると嬉しいな。
「まぁ…いつかな」
「ふふっ、ありがと」
これは回避できたのか?
結局いつか言われる羽目になりそうだが、とりあえず今のところはよしとしよう。
そこで七海は階段を登り、振り返って口を開いた。
「それじゃあ、また連絡するねっ」
「ああ」
「あっ、今日…」
「ん?」
「と、泊まって……や、やっぱり何でもないっ!!」
「あ、そうか…」
「ばいばい!またねっ!」
「あ、ああ…またな…」
七海は逃げるように別れを告げて、逃げるように家に逃げていった。
「帰るか」
七海の姿が消えた頃に優は振り返って一瞬空を見上げた。
(星って、こんなに綺麗だっけ)
見える世界が変わったのだろうか。
今まで何度も見たはずの景色が輝いて見える。
それぐらい、嬉しかったということだろうか。
いや、嬉しかった。
思わずスキップをしながら帰るぐらいには。
(なんかこの道も綺麗だなぁ…あ、あの家も…んまぁ、気のせいか)
優はとうとう鼻歌を歌い始めた。
かなり能天気だなこいつ。
でも、今日くらいは仕方ないか。
今日くらいは、みんな許してくれるだろう。
優は幸せを噛み締めながら家に帰った。
家に着く頃には鼻歌をやめ、少し心を落ち着けてから歩みを進めた。
そして家の扉を開け、靴を脱いだ。
そのままリビングに入り、テンション高めに家族に挨拶をした。
「たっだいまぁ〜っ」
「お帰りなさ〜い」
「お、お帰りなさい…」
「おかえり。優、もしかしてその感じだと…」
優は首を縦に振った。




