181 心の準備
(え…一体何が起こったの…?)
七海はあれから頭が回らず、何も考えれないまま電車に乗り込んだ。
普通に優の隣に座るが、どこか気まずさを感じて自然と身体が明後日の方向を向いてしまう。
そしてそのまま外の景色を見て落ち着きを取り戻し、一旦深呼吸。
(まずは、状況を整理しようか)
七海は観覧車での出来事を思い出した。
(まず、普通に乗って…何気ない会話をして…)
そこまでは問題なし。
(私が夕日が綺麗だねって言ったら…七海の方が綺麗だよって…〜〜〜っ!!!)
これは、問題ありだ。
ここまで直球に褒められたことなんて1度もない…はず。
だからこそ、七海は冷静でいられなくなる。
(そ、それってつまり私の方が綺麗だってことだよねっ!!)
完全に理解が追いついていない七海は謎にもう1度優の言葉について確認をとった。
そうして七海は優の言葉を理解した。
理解して、爆発した。
(あ、あぁぁぁぁ〜〜っ⁉︎ど、どういうことぉぉっ!!)
前言撤回。
理解せず、自爆した。
(そそそそういう言葉って恋人とかに言うやつなんじゃないの?いや私も期待してたけど…!)
そう、七海は優からお褒めの言葉をもらいたいという気持ちからあのような発言をした。
そして実際に褒めてもらい、七海の脳は無事破壊された。
(それって優くんが私のこと…)
好きだという合図なのではないか。
そういった考えに至る。
そしてそこで、その後の出来事を思い出す。
「なあ七海。俺は、七海のことが__」
あの時のまるで告白でもするかのような目が脳から離れなくなる。
(優くん、もしかして…)
本当に告白をしようと…?
(…なんて、考えすぎだよね…)
七海は少し諦めがちにため息を漏らす。
(でも本当に優くんから告白されたら…)
多分、嬉しすぎて死んでしまう。
だから、告白はこちらからしたい。
…その場合も、多分恥ずかしくて死んでしまうが。
(と、とにかく!今は告白のために心の準備を…)
そうだ。
今は告白のために心臓の鼓動を落ち着かせておかないと。
(本当は観覧車で告白するつもりだったんだから…次は絶対に失敗できない…!!)
…本当は観覧車よりも前に告白する予定だったよね?
どうやらそのような記憶は消えているらしく、七海は次こそはと闘志を燃やしていた。
と、そんな時に電車が止まった。
どうやら降車駅に着いたらしい。
(…え?そんなに時間経ってたの?)
体感では5分も経っていないのに。
(あ、優くん…)
優は黙って手を差し出してくる。
「…ありがとっ」
七海は目を合わせられないまま優の手を取り立ち上がる。
そしてそのまま優に着いて行くように駅を出た。
それからも、やはりといった感じで無言の状態が続いた。
(流石にこの雰囲気で告白はできないよね…)
七海は少しでも明るい雰囲気にしようと口を開いた。
「ゆ、優くんっ」
「ど、どした…?」
声をかけると優が一瞬驚いたようにビクンと跳ねた。
そんなに緊張していたのだろうか。
…まぁ、それはいいとして。
今は適当に話を続けねば。
「今日は…ありがとう…。すごく楽しかった」
「そっか…それならよかったよ…」
優は今も気まずそうで、なかなか目が合わない。
流石にこの状態では告白とかいう話ではないだろうと、七海は話を続ける。
「特にあの時の…」
「__っ⁉︎」
優は心臓が大きく跳ねるのを感じると同時に、血の気が引いていくのを理解した。




