180 今なら
(あぁぁぁぁっ__!!先走ったぁぁ!!!!)
2人は遊園地を出て電車に乗った。
他の人々は「楽しかったね」などと言いながらウキウキで帰路についているようだが、この2人は違った。
現在優は気まずくて完全に目を逸らしており、なかなか不穏な空気が流れていた。
七海に至ってはもう全身ごと明後日の方向向いてるし。
これは、非常にマズい。
このままでは、ここから一言も話すことなくデートが終わってしまう。
いやデートは終わったようなものなんだけど。
でも優にとってはまだ終わっていなかった。
むしろここからが本番だとさえ思っていた。
だって本来、電車から降りて七海を家に送っている時に告白するつもりだったから。
(調子に乗らなければ……っ!!)
そう、あの時はつい調子に乗ってしまったというか。
列に並んでいるうちに頭が混乱してきてもう何も考えられなくなり、なんか自分が無敵だと思っていた。
それにあんな綺麗な景色に、あんな綺麗な七海の姿があれば…
(あれはしゃあなくないっすか…?)
と、腰を低くして自分に言うが、当然許してはくれず。
(いやそれでもあれはないわ)
優は過去の自分の行動を心から悔いる。
(クソ〜!!いけそうだったのに__っ!!……ん?いけそうだった…?)
内臓が飛び出しても思い出したくないが、大切なことな気がするので死ぬ気で思い出す。
(…いやあれ普通にいけそうだったくね?)
あの時の七海の表情を懸命に思い出すと、自然とそういった結論に至った。
(え…じゃあ…普通に通知戦犯すぎんか?)
優は1度スマホを睨む。
そしてトーク画面を開き、その人物に最大限の怒りを向ける。
(泰明のヤツ…)
ちなみにその連絡とは、クラスみんなで1年間ありがとう会を開こうというクソどうでもいい普通に消えろといった内容だった。
うん、クソどうでもいい。普通に消えろ。
別に泰明は全然悪くないが、優はそれでも怒りを覚えた。
(あいつが全部悪い…あいつのせいで…)
…やっぱり泰明が全部悪いのかもしれない。
などといったカッコ悪い思考は見過ごせず。
(なんて、言ってたら七海に嫌われるし、普通にキショイな俺)
全部、自分が悪い。
今まで勇気が出せなかったのも悪いし、今勇気を出せそうにないのも悪い。
だがこの問題はもう1度告白さえすれば治るものだ。
(それができたら苦労してねぇ〜〜)
優は頭を抱える。
もう1度勇気を出せたら…
(って俺さっき勇気出てたか…?)
なんか冷静でないまま告白しようとしてた気がするんだけれども。
…まあいいか。
それは気にしない。
それより今はとにかく気持ちの整理を。
優は控えめに深呼吸をし、一旦冷静になって考える。
(とりあえず電車から降りたら七海を家まで送って…その途中でタイミングを見て告白だな…)
て、言うだけなら簡単なんだよなぁ。
何かもう少しこう、背中を押してくれるような出来事でもあれば。
そんなことを考えていた時だった。
『頑張れーーー!!!!』
そのようなメッセージがスマホに届いた。
送り主は…
(有咲__っ⁉︎)
愛する妹だった。
なぜこのタイミングでこのようなメッセージを送ろうと思ったのか。
それはよくわからないが、よくわかる気がする。
やっぱり、最後まで背中を押してくれるのは有咲だったか。
優は一言『頑張るよ』とだけ返信した後、自信を持って顔を上げた。
(これで、流石に逃げられなくなったな。でも、それでいい)
内心少し笑いながら、勇気を振り絞った。
その勇気はまるで吹っ切れたような、けれども清々しいような、何とも言い難いものだった。
でも言えることがひとつだけある。
(今なら、いける)
その時、電車が降車駅に着いたのだった。




