178 渡したくないんだが
七海は今日のデートのために璃々と様々な作戦を考えていた。
【やっぱり、如月くんが特別だっていうことをアピールしないとっ】
「特別…」
普段からアピールしているつもりだった。
でも、鈍感な優は当然の如く気づいていない。
なので当然、普通の作戦は通用しないわけで。
「刺激の強い作戦…とか…?」
七海は心の中でふと思ったことを口にした。
【いいねそれっ!!】
「いやでも流石に恥ずかしいし…」
【いや、やろうよっ!!】
璃々はハイテンションになり、早口で解説を始めた。
【普段のやり方じゃ絶対に足りないからいつもより高刺激な手段でアピールするのはすごくいいと思う!それでいい感じに如月くんに__】
「そうだねー」
途中から聞くのが面倒臭くなって七海は適当にスルーした。
【はぁ…はぁ…つまり!如月くんも男の子!七海ちゃんが身体を押し付けたらきっと興奮して__】
「そ、それ以上はやめてぇーっ!!!」
1度そういった作戦で失敗した過去もある。
だから今回はもう少し違った作戦で__
【そこでベッドに押し倒されて上から少しずつ__】
ここから先の話はよく覚えていない。
璃々が暴走してお色気作戦ばかり提案されて脳が熱くなってたから。
七海は熱が冷めた頃にもう1度自分で作戦を考えた。
(さりげなく特別アピールできて、そして優くんにとって高刺激な作戦は…)
「はっ!!」
七海は完璧な作戦を思いついた。
「これなら…!!」
七海は迷わず作戦を実行することにした。
そして現在、作戦を遂行した七海の心情は…
(完っ全に失敗したぁぁ〜〜〜っ!!)
失敗したことに落胆すると同時に、あんな恥ずかしいことをしてしまった自分への羞恥心が襲ってきていた。
「はぁぁぁ…」
「大丈夫か…?怖かったもんな…。ほら。手、貸してやるから」
「!!」
優はさりげなく自分の片手を差し出してきた。
それはすなわち、手を繋いでいいということで。
七海がこの効果を逃すわけがなく、すぐに自分の手を優の手に乗せた。
(あぁ〜幸せっ♡)
七海は心の中が満たされるのを感じながら優の指の間に自分の指を通した。
「なっ…⁉︎七海サン…?」
「ん?どうかした?」
「い、いやそのー…なんでもないっす…」
七海が恋人繋ぎをすると、優は身体をビクンと跳ねさせて驚いた。
その反応を見て七海は手応えありと感じ、そこで追い討ちをかけるように身体を密着させた。
(ああぁぁ恥ずかしいっ…!!で、でも今頑張らないとっ…!!)
七海は羞恥心を隠しながら優の表情を窺う。
(…反応なし…?)
いや、よく見ると不審な点がいくつかある。
泳いでいる目線、不自然に震えている手。
(優くん…ドキドキしてくれてるのかな…?)
そんな思考に至った直後、心臓から全身に熱が伝わるのを感じた。
(そうだったら…嬉しいな)
七海は期待で胸が膨らみ、さらに身体を密着させた。
そんな状態のまま、2人はそこら中をぶらぶら歩き回った。
「な、七海…そろそろ…」
「ん…?」
突然優が疲れ切ったような声を出し、七海は疑問符を浮かべた。
そんな七海に構うことなく優は自分の心の叫びのようなものを伝えてくる。
「そろそろ離れてくれないか…?じゃないと、俺…死んでしまう…っ」
「ど、どうして…?」
「だからその…身体が熱すぎて…」
言われてみれば、確かに先程から優の身体は熱い。
それも異常なまでに。
七海はそのことに気づき、仕方なく身体を離した。
「はぁ…助かった…って、七海…?」
「ん?なに?」
「いやなにって…なんか拗ねてる…?」
「ううん?別に?」
「いや明らか拗ねてるじゃん。俺、なんかした…?」
「ふふっ…何もないよっ」
ああ、楽しい。
こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。
七海はそんなことを考えながら、さらに決意を固めた。
(優くんは、絶対に誰にも渡さない。絶対に、私のものにするんだから!!)
七海は心の中で強く拳を握った。




