174 それはヤバいんだが
写真撮影から数分後、優はようやく目を覚ました。
「ん…あ…」
「あっ、優くん…?」
「……」
(この状況は一体…っ!!)
まだ視界がぼやけてよく見えないが、後頭部に伝わってくる感触や七海の声の方向から察するに、今優は膝枕をされている。
(いやなんでこんな堂々と膝枕してんの?普通にめっちゃ視線感じるんだけど)
周りを見渡すとここが先程の名所のすぐ近くにあるベンチだということに気づき、さらに多くの人から視線を浴びていることにも気がついた。
でも優はそれ以上に重要なことに気づいてしまった。
(…なんか、右目がよく見えない)
今現在優は七海に膝枕されていて、右側には七海のお腹があってそちら側が見えないのは分かる。
問題は上を向いた時だ。
(空が半分に分断されてる…)
そう、空が半分しか見えないのだ。
いや、半分も見えていないかもしれない。
一体空に何があったのだろうか。
いや問題があるのは右目か。
では次は左側を見てみよう。
こちらは比較的視界は良好だ。
人から見られているのがよくわかるのであまり見たくはないが。
(うーん…こっち向いた時だけ右目が見えるな)
何かの間違いではないかと思い視線を上空に戻す。
でもやはり空は半分に割れていた。
(一体どういうことだ…?)
まだパンクしている優の脳では理解が追いつかず、1度起き上がって再度目を確認した。
(よく見えるな…。じゃあさっきのは本当に何なんだ…?)
優は七海に訊いてみようと隣に目を向けた。
「なあ七m__」
「優くんのえっち……」
「…え゛っ⁉︎」
なんか、話がおかしな方向に行っている。
流石の優もそのことに気づき、説明を求めた。
「いやなんでっ⁉︎」
「だって…さっきずっと…私のむね…見てたじゃん…」
「えっ⁉︎」
一体何の話か分からないが、とりあえず思い出すことに全力を注いだ。
(さっきってことは膝枕してる時か…?その時に俺が七海のを…?いやそんなはずは…)
「あ__」
もしかして、空が半分になってたのって…
「ご、ごめんなさぁぁぁいっ!!!!」
ようやく理解し、即座に頭を下げた。
羞恥心などの感情は全て捨て去り、ただひたすらに七海に謝った。
「ほんっっっとうにごめん!!そういうつもりじゃなくてっ!!えと、、その、」
頭を下げながらとにかく謝罪の言葉を考えていると、正面から七海が小さな声で話し出した。
「い、いいよ…わかってるから…」
「七海…!!」
「優くんがえっちなことは…」
「え」
いやそっちかい。
「わざとじゃないのはわかってるから」って言うところじゃないの?
このままではマズい。
非常にマズい。
流石に変態男のイメージを持たれたまま告白してもどうなるのかは明白だ。
優は誤解を解くべく、様々な言い訳を綴った。
5分に及ぶ説得の末、ようやく七海が理解してくれたように頷いた。
「そ、そうなんだ…。わかったよ…」
うーん、まだ誤解を解き切れていない気がするが、もういいだろう。
優は七海に再度謝った後、立ち上がって手を差し出した。
「じゃあ…そろそろ行くか」
「そう…だね」
七海は優の手を取って立ち上がり、まだ互いに顔の熱が冷めないままアトラクションを回り始めた。
手を取ったところからそのまま手を繋いでいるのはとりあえず滅茶苦茶気になるが、キャパオーバーなので一旦無視しておいて。
優は七海に乗りたいものはないかと尋ねた。
そして七海は楽しそうにある乗り物を見上げた。
「あれ乗りたいっ!」
「え?」
七海は日本一とも称されるとてつもない角度のジェットコースターを指差していた。




