173 勢いが大事なんだが
電車に揺られること30分。
2人は目的に到着し、早速列に並んだ。
「す、すごい人だね…」
今回訪れたのはかなり人気のある遊園地だ。
日曜日ということもあり、人の数がとんでもないことになっていた。
これは多分、入場するだけでもかなり時間取られるやつだ。
(ん〜…ミスったか…?)
折角のデートなのに七海を長時間待たせてしまう可能性があるので、優は単純に失敗したかと思った。
優は少し不安になりながら七海の表情を窺った。
「…ん?どうかした?」
「いや…結構待ちそうだなぁって…」
「そうだね〜。でも、そっちの方がなんかワクワクしない?」
何だか楽しそうにそう語っている七海の顔を見ると、失敗だったなどという感情は一滴残らず消え去った。
「そう、だな。なんかそんな気がしてきた」
「だよねっ!折角の遊園地何だからめいいっぱい楽しまないと!」
七海はどこまでも明るく、どこまでも眩しい。
そういったところが、たまらなく好きなんだ。
(うるさいな心臓…っ!黙らないと七海に聞こえるだろっ…!)
自分の胸に手を当てて何とか鼓動を抑え込もうとするが、むしろ心臓の音は大きくなっていて。
(あーヤバいヤバい脳が回らなくなってきたヤバい死ぬ好きだ好きだ好きだあああああああああああ、、)
七海のせいで優の脳は完全に破壊された。
別に七海は何もしてないんだけどね?
完全に優が自爆しただけなんだけど。
そんな大破した優の姿を七海は怪訝そうに眺めていた。
「ど、どうかした…?人混みにやられちゃった?」
七海からの質問が耳に届いた瞬間、優は無理やり現実に引き戻された。
「ん?…あ〜まぁ、そんなとこ…」
「そっか。人多いもんね。しんどいなら、また今度でも__」
「それはダメだ」
「へ?」
不意を突かれて七海が変な声を上げた。
七海からすれば、今日にこだわる理由が分からないのだろう。
別に今日は特別記念すべき日でもなければカップルがよくデートをする日でもない。
ではなぜ今日にこだわるのか?
それは思ったよりも簡単なことだった。
(今日告白させてくれないともう絶対無理ぃぃぃぃっ!!)
優はほとんど勢いに身を任せて今日告白するためにデートに誘った。
そしてもし、今日告白ができなくて勢いがなくなったら?
ヘタレ説が浮上している優が普通の状態で告白できる確率なんて、ホコリが風の力だけでICチップになるより低いだろう。
つまり、今日告白できないイコール一生告白できないということだ。
流石の優でも告白しないまま後悔はしたくない。
だからいっそ勢いに任せて告白してしまおうという思考のもと、今日のデートが成立している。
なのでデートが不成立になった時点で、優の敗北が決定する。
優はそんな敗北ではなく勝利を掴み取るため、いつもよりも強気に振る舞う。
「俺は今日七海と一緒に遊園地を回りたいんだ。だから、俺は何があっても今日がいい」
「優くん…」
七海は半ば理解できていなさそうな表情のまま優について行った。
そしてそれから1時間弱が経った頃、ようやく2人は入場することができた。
「あ!私、あそこで写真撮りたいっ!」
七海は入って早々名物の前で写真を撮りたいと言い出した。
優も入場したらすぐにそうするつもりだったのであっさり承諾して七海について行く。
「ここにしよっか。ほら、もう少し近づいて」
「あ、ああ…」
「…近づいてくれないと入らないよ?」
「そう、だな…」
「もう…えいっ!」
「な…っ⁉︎」
七海が勢いよく腕にしがみついてきて、優の心臓は破裂しそうになる。
(なななななな七海のややややや柔らかいのがあああああああ)
優の脳は今度こそ完全破壊され、しばしその場に倒れ込んだのだった。




