167 モヤモヤするんだが
「なるほどねぇ。つまり、どうデートに誘ったらいいか分からないと」
あれから数分後、デザートを注文してそれを頬張りながら柊太がそう言った。
「ああ…なんか気恥ずかしくてな…。いつもは向こうから誘ってくれてるから、こっちからの誘い方が分かんなくて…」
優は少し暗い顔をしながら2人に相談する。
だが2人は顔を引き攣らせており、少し引いているようにも見える。
「いつもはって…いつも桜庭さんからお誘いを受けてるってこと…?」
「まぁ…うん」
「マジかよ…」
優の回答を聞いて2人はさらに引いたような目を向けてくる。
そして泰明が少し怒りを交えた声を上げた。
「いやそれもうお前のことが好きじゃねぇかよ⁉︎羨ましいな!!」
「…は?」
優は頭の理解が追いつかず、ガチトーンで訊き返すと、柊太が呆れたように笑いながら口を開いた。
「ははっ、流石に好きでもない男をいつもデートに誘ったりしないよ」
「そ、そうなのか…?」
「そりゃそうだよ。しかも桜庭さんみたいなタイプの人は特にね」
「そうなのか…」
あれ、そういえばこんなことを前にも言われた気がする。
……………………
あ、あの時か。
バレンタインの日の夜、母の奈々に恋愛相談した時にも、そんなことを言われた記憶がある。
最近はどうやってデートに誘うのかを考えるあまりそのことを完全に忘れてしまっていた。
少し、考えすぎていたのだろうか。
もう少し視野を広く持とうと、一旦深呼吸をする。
そして冷静になり、思考を巡らせる。
七海の今までの言動を思い出し、冷静に分析する。
そして答えを導き出す。
(…なんか俺めっちゃ好かれてね?)
片思い中の人間が発することのできない言葉ランキング第3位に入るような答えに至るが、頭を大きく横に振ってそれを否定した。
(いや流石に思い上がりすぎだろ。七海が俺のことを好きだなんて…)
あり得る、のか…?
もし、そうなのだとしたら…。
そう考えると、何でもできるような気がしてきた。
(…誘ってみるか)
優は黙ったままスマホを取り出し、勢いのままに七海にメッセージを送った。
「ど、どした…?」
「頭でもおかしくなったのか?」
2人からはそういった声を上げられるが、完全に無視して文字を打ち込む。
『来週の日曜日って暇か?』
メッセージを送信してから一瞬で既読がつき、そして一瞬で返信が来る。
『暇だよっ!』
どこか嬉しそうな言葉が返ってきた。
多分七海も期待はしているのだろうが、いつも通りその話ではないと思っているだろう。
優はその意表をつくようにメッセージを送った。
『じゃあどこか遊びに行かないか?』
そのメッセージに一瞬で既読がつくが、返信はしばらくこなかった。
多分驚きやら嬉しさやらでおかしくなっているのだろう。
優はそのことを察し、一旦スマホを閉じた。
そして目の前にあるアイスクリームを頬張った。
「…何があった…?」
「さぁ…でも、幸せそうだからいいんじゃない?」
自分では分からないが、今現在は幸せそうな表情をしているらしい。
少し恥ずかしいがそれを隠そうとはせず、頭の中でデートプランを練っていた。
そういったことをしているとスマホから通知音が鳴り、優は期待を含んだ心境で画面を見た。
『いいよ』
ただ一言、そう返信が来ていた。
急にどうしたのだろうか。
先程とはテンションが全く違う。
(調子に乗りすぎたか…?)
優はそんなモヤモヤを抱えたままその日を過ごした。




