表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/218

163 言うんだ


(ゆう)くん、気づいてくれないかなぁ…)


学校の女子トイレの中で、七海(ななみ)は1人で考え事をしていた。


(こんなにアピールしてるのにな…)


七海はいつになっても振り向いてくれない優に不満を覚えていた。


無理もない話だ。


あれだけ積極的にアピールしているのに、いつも何事もなかったかのような対応をされる。


最近はなぜか改善が見られ始めたけど、まだまだ不満は解消されていない。


「(優くんのばか…)」


つい、小声でそう呟いてしまう。


一応他に誰もいないことは確認済みだが、流石にこの静かなトイレの中だとかなり声が響く。


七海はこの声が誰にも届いていないことを祈りつつ、さらに頭を悩ませ始めた。


(もう、私から告白しようかな…)


まぁ告白まがいのことは散々やってきたんだけどね。

多分、鈍感な彼じゃなかったら確実にOKをもらえている。


いや、OKをもらえる前提はおかしいかな?


(カッコよくて優しいからモテるだろうし…最近なんて、身なりを整えだしたからいろんな女子が見てるし、噂では好きになった子もいるって…)


だから、自分が恋人になれるなんて、ただの慢心に過ぎない。


(油断してたら、他の子に取られちゃうっ…)


七海は意志を固める。


早く、告白してしまおう。


いつものようなアピールではなくて、真剣な告白を。


(…よしっ!)


七海は鼓動が早くなっている心臓を無視し、焦るように教室に戻って行った。


「ん、おかえり」

「ただいま」


七海は緊張で手が震えそうになるのを抑えながら席に座った。


そして、早速話を切り出す。


「ねぇ、ちょっと大事な話があるんだけど…」

「ん?」


七海が真剣な表情をしているのを見て、優も心を落ち着かせる。


「そ、その…私…」


言葉が止まってしまう。


早く言うんだ。


好きですと。


恋人になってくださいと。


早く、言ってくれ。


早く、早く、はやく…


「七海…?大丈夫か…?」


優に肩を叩かれた時に、目が覚めた。


「あ、うん…大丈夫…」


焦る気持ちからか、完全に自分を見失ってしまっていた。


また恥ずかしいところを見られてしまった。


でも、今は恥ずかしいなんて感情は湧いてこない。


今は、とにかく緊張で満たされている。


そしてまた、呼吸が荒くなる。


「どした…?体調悪いのか…?」


優から心配の目を向けられる。


七海は優の言葉をを即座に否定し、一度冷静になれるよう深呼吸をした。


「ゆっくりでいいから、話してごらん」


そう言われ、もう一度深く息を吸った。


本当に、優しい人だ。


私なんかには、眩しすぎる。


でも、もし恋人になれたら。


それを想像するだけで、いくらでも幸せになれる。


でも、いつまでもそういう妄想でいられるわけもなく。


私は今日、この妄想の世界を終わらせる。


そして、現実を掴み取る。


それが叶わなかったら…それはその時考えよう。


優しい人たちに囲まれているから、きっと誰かが励ましてくれる。


そう願いながら、七海は口を開く。


「優くん、私とっ__」


そこで、時間が止まった。


何だろうか、この寒気は。


この全てが終わってしまいそうな予感は、一体何なのだろうか。


……怖い。


今まで一緒に過ごしてきた日々が終わることを想像すると、たまらなく怖くなる。


…………でも、決めたんだ。


今日、自分の気持ちに決着をつけると。


今日こそ、幸せを掴み取ると。


(私なら…出来るっ!)


七海は勢いに身を任せ、大きく目を開いた。


そして、あの言葉を絞り出す。


「私と付き__」

「あ、チャイムだ。悪い、また後でいいか?」


次の授業は体育なので、優は少し急ぎ足で更衣室に向かった。


(…結局できなかったなぁ…)


私は、ただのヘタレだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ