159 目覚めてほしいんだが
あれからは気まずくて家族と話すことができず、優は内心すごく緊張している状態で夕食を食べていた。
そして何より…
「今日はお父さんがいなくて寂しいです…」
「そうね〜話したいことがあったのにね〜」
そう、今晩は父の優希が家に帰って来ず、優以外には女性しかいないという事実がこの気まずさをより引き立てていた。
(何を話せばいいんだこれ…)
先程から黙って食事を食べているので、2人に不審感を抱かれているのは分かっている。
というか、何で黙っているのかもバレている。
だからこそ、何も話せずにいる。
そして奈々と有咲の話も終わり、とうとうリビングに沈黙が訪れた。
全員気まずそうな表情を浮かべていて、口を開けずにいた。
それから数分経った頃に、我慢できなくなった奈々が重い口を開けた。
「優、その…私もどう言えばいいのか分からないのだけど…やっぱり妹の前でそういうことはやめた方が…」
「…は?」
まさかの直接的な質問に言葉が出なくなる。
その間に有咲が恥ずかしそうに頬を赤らめながら話に入ってきた。
「そ、そうですよ…し、仕方ないのだとは分かっているのですけど…やっぱり、こっちも恥ずかしいので…」
うーん。
絶望的に誤解されてるな。
正直言って今すぐこの場から消えてしまいたい。
だがそんなことは物理的に出来るはずもなく、優は即席の言葉を並べた。
「いやいやいや、それは本当に誤解なんだって」
「優。嘘、つかなくていいのよ…?」
「いやだから本当に誤解なんだって」
「では…あんなに顔を赤くしてニヤニヤしながら一体何をされていたのですか…?」
「それは…」
どうしよう。
良い言い訳が思いつかない。
もう正直に話した方が楽で分かりやすいだろう。
優は先程部屋で考えていたことをオブラートに包みながら話した。
「なるほど…つまり、えっちなことを考えていたっていうことね〜」
「うん、話聞けや」
なぜか奈々の誤解は解けておらず、呆れて顔に手を当てた。
そうやって優が目を離した隙に、奈々がスマホを取り出して何か文字を打ち始めた。
優は不審に思い、奈々に何をしているのか訊いてみた。
「何してんの?」
「ん〜?七海ちゃんに報告してるの〜」
「へー…じゃねぇよ⁉︎何やってんだよ⁉︎」
咄嗟に奈々のスマホを取り上げ、七海に送られていたメッセージを取り消した。
幸い『優が七海ちゃんのことを想像して』までしか送られておらず、優は何とか耐えたと胸を撫で下ろした。
だがそのメッセージはバッチリ見られていて、七海から疑問そうな返信がやってきた。
『私のことを想像して、どうしたんですか?』
優は焦りながらバレないように七海に返事をする。
『ごめんなさい。間違えて送ってしまったの。だから忘れて〜!!!!』
『はい…』
よし、何とか乗り切っただろう。
なんか若干七海に怪しまれている気がするが、気のせいだろう。
と、ここで奈々にスマホを取り返され、少し怒った様子で口を尖らせてくる。
「も〜何してるのよ〜。せっかくいい報告ができそうだったのに〜」
「いや何もよくねぇよ。もう少しで俺が社会的に死ぬところだったわ」
優は冷静にツッコミを入れ、何とか七海への報告は阻止することができた。
それより問題は有咲の方だ。
有咲はさっきからずっと呆然と上の方を見ており、心ここに在らずといった感じになっている。
「有咲…?おーい、大丈夫かー」
肩を揺さぶって名前を呼ぶが、全く応答はない。
「これは…幽体離脱かしら?」
「なわけあるか」
有咲はしばらく目覚めることなくずっと上を向いていた。




