156 察してほしいんだが
「おはよう2人とも」
玄関の扉を開けると、いつも通り七海の姿があった。
「おはようございます」
「…おはよ」
「あれ、優くんその髪型…」
「ん…?ああ、たまにはいいかなって…」
「そうなんだ。とっても似合っててカッコいいんだけど…」
優は平静を装いながら挨拶をするが、普段からストーカーレベルで優のことを見ている七海はすぐに違和感に気づいた。
「優くん、どうかした?」
「ん?どうって?」
「いや、何だかそっけないというか、雰囲気?がいつもと違うような気がして…」
「そうか…?」
バレたかと思いつい視線が泳いでしまう。
その姿を見て確証を得たのか、七海は先程よりも強めに迫ってくる。
「何か嫌なことでもあったの?私でいいなら相談に乗るよ?あ、もしかして私のこと__」
「七海さん。そこら辺にしておきましょうか」
有咲に止められて落ち着きも取り戻し、優の表情を窺う。
「えっ…?」
優はいつになく顔を赤くしており、やめてくれと言わんばかりに手を使って距離を取ってくる。
それを見て七海は嬉しそうにニヤニヤと……
(私、嫌われちゃった…?)
いや、全然絶望していた。
優が顔を赤くしているのなんてどうでもいい。
今はただいつもと違う拒絶のされ方に不安を感じている。
それが好きな人から迫られて照れていただけだとも知らずに。
七海は顔から血の気が引き、今にも吐いてしまうのではないかという表情をしている。
「七海さん…?大丈夫ですか?」
七海の見たことのないような青ざめた顔を見て、有咲が心配そうに七海に寄り添う。
「うん、大丈夫…」
七海は平気かのような反応を示すが、有咲から見ればとても大丈夫には見えなかったようで、さらに追求し始める。
「いえ、そうには見えません。何かあったんですよね?例えば…お兄さんに嫌われたと思ってしまったとか…」
「……っ!!」
「図星ですか…」
有咲に完全に心を読まれてしまい、一瞬目を見開いてしまう。
その反応を見て有咲は図星だとわかり、さらに言葉を添え始める。
「お兄さんが七海さんのことを嫌いになるわけないじゃないですか。ね?お兄さん」
「ん?あ、ああ…」
「そういうことなので、ほら、いつものように七海さんもお兄さんにくっつきましょう?」
いつもと違う有咲の雰囲気に、反応に困ってしまう。
(有咲ちゃん…どうして急に…?)
いつもなら「お兄さんは私のだから離れてください」
とか言ってくっつくことを否定してくるのに、今回は自らくっつくように仕向けてきた。
どういう風の吹き回しか分からないが、妹の許可が降りたことだし、せっかくならくっついておこう。
七海はいつものように両腕で優の片腕を抱きしめ、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら歩いて行く。
だがそんな七海よりも顔を赤く染め上げてる人物がいた。
(有咲め…わかっててやってるだろ…)
そう、優だ。
自分の気持ちに気づいてから七海と話すのすら緊張するようになったので今のこと状況は血の気が引来そうになるぐらい心臓の鼓動が早くなっている。
「優くん…?やっぱり嫌だった…?」
まだいつもより距離を置かれている気がした七海は不安そうに優の顔を見上げる。
だがそれは完全に誤解なので慌てて否定する。
「いや、そういうわけじゃないけど…」
「わけじゃないけど…?」
「………」
「優くん、やっぱり__」
「七海さん、もうやめておきましょうか」
ナイス有咲。
いいタイミングで割り込んできてくれ、優は落ち着いて思い切り息を吐いた。
だが七海は落ち着いてはいられず、有咲に質問をし始めた。
「なんで?やっぱり私、何かしちゃったんじゃ…」
「本当にそんなことはありませんよ?ね、お兄さん」
「あ、ああ…」
「本当…?なら、いいんだけど…」
でもやはり距離を感じた七海はもう一度優に質問を__
といった感じの流れが学校に着くまで続いた。
ちなみに優の心は完全に破壊され、しばらく話すことすらできなくなった。




