150 なぜいる
優希と固い絆が結ばれた後、2人は恋愛の何たるかを語り合っていた。
「で、膝の上にちょこんと乗ってきた時の可愛さといえばそれはもう…」
【ドンッ】
「(あっ!)」
突然ドアの向こうから物音と女性の慌てた声が響き、2人は一瞬でそちらを向いた。
「…なあ優…」
「ああ、そうだな…」
2人は同時に頷き、一斉に扉を開けた。
「うわっ!!…いたた…」
「何してんの?母さん」
扉を開くと同時に奈々が部屋の中に倒れ込み、2人は乾いた目を向ける。
「奈々…俺が2人で話すって言ったよな…」
「うう…ごめんなさい…。つい、気になってしまってぇ…」
「はぁ…せめて言ってくれよな。流石にビビったわ」
母がいるとも知らずに恋バナをガッツリしてしまい、優は恥ずかしさが込み上げてきている。
だが優よりも顔を赤くしている人物が1人。
「…ホント、いい趣味してるよ…」
この人、本人が扉の向こうにいるとも知らずにこういうところが可愛いとかの話を滅茶苦茶していた。
そりゃ…恥ずかしいよ。
流石に十数年ずっとそばにいる人だとしても、いや、だからこそ恥ずかしいのだろう。
優希は下を向いて片手で顔を隠しており、側から見ればどこか悪くしたのかと思ってしまうようなほどにガッツリ真下を向いている。
(父さんがこんな恥ずかしがることもあるんだな…。恋愛って…恐ろしい…)
今自分がその恐ろしい恋愛に片足を踏み込んでいることは度外視し、優希の照れた様子をじっくり脳に焼き付ける。
(…いつかこのことを引き出していつもの仕返しをしてやろう…)
こと恋愛話となると散々おちょくって来るので、次の機会には今回の話を持ち出して一泡吹かせてやろうと考える。
そんな思考を巡らせていると、優希は顔を上げて奈々の方を見始めた。
奈々は頬を紅に染め、正座のまま明後日の方向を向いている。
やはり奈々も恥ずかしかったのか。
まぁ、気持ちはわかる。
本人がいないところでその人の話をコソコソするなんて、当然本心を語り合っているわけで。
つまり、優希の可愛い発言は紛れもなく本心であることが確定した。
流石に十数年ずっとそばにいる人だとしても(以下略。
結局10分程ドロドロとした空気が部屋中に流れ、優は居心地の悪さを感じていた。
普通に親がイチャイチャしているところなんて見たくない。
とりあえず2人にバレないように部屋から出て行こうと、足跡を忍ばせて扉まで向かい、ドアノブを握ったところで奈々に声をかけられた。
「優?どこに行くの?話はまだ終わってないわよ?」
「いや始まった記憶がねぇよ…」
別に奈々と何かを話していた記憶はないんだが。
でも一方的に聞き耳を立てていた奈々は自分もあの話に入っていたつもりらしく、そのことをとことん追求してくる。
「七海ちゃんのどこがよかったの〜!!」
「…」
なんかノリがウザいが、いつかは相談するつもりだったし今のうちに答えておく。
「それは…全部…かな…」
「おお〜いいわねぇ〜!で、強いて言うならどこが好きになったの??」
「うぅ…」
ここで優希の目を見て助けてとアイコンタクトを送ってみる。
だがしかし、帰ってきたのは(無理)といった冷めた言葉だった。
優希は諦めろとでも言いたそうな表情でじっとこちらを見てくる。
(万事休すか…)
完全に追い詰められた優は、ゆっくりと重い口を開く。
「強いて言うなら__」
この後の羞恥心は、きっと一生忘れないだろう。




