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「あ、お帰りなさい」


(ゆう)はいつものように帰宅し、いつものようにリビングの扉を開いた。


すると1番初めに有咲(ありさ)が近づいてきて少し強めに抱きついてくる。


またいつもの充電とやらだろうか。


だが今はそれに反応する余裕はない。


優は呆然と立ち尽くし、有咲が離れた直後に口を開くでもなくサッとリビングから出て行った。


「あら〜?」

「なんか様子がおかしいな」

「私、何か怒らせるようなことをしてしまったのででしょうか…」

「いや…優に限って有咲に怒ったりはしないと思うけどな…」


いつもと明らかに違う優の様子に家族一同疑問符を浮かべる。


全員数秒間考えたところで優希(ゆうき)奈々(なな)の耳元まで口を運び、コソコソと話し始める。


「(なぁ、もしかして…)」

「(えぇ…私もそう思うわ…)」


2人は自分たちの経験などから優の心情を察することに成功した。


今すぐに飛び跳ねて優を問いただしに行きたいところだが、そういうわけにはいかない。


「…2人ともどうかしましたか…?」


そう、今は有咲がいる。


有咲だけは、確定してもいないことで振り回したくないのだ。


できれば、本人の口から直接聞いて欲しい。


いちばん大切な、兄だからこそ。


だから2人はこれについては触れず、一度心を落ち着かせようと有咲を風呂に誘導した。


「では、先にいただきますね」


全く腑に落ちていない様子だが、それはいずれ解消されるだろう。


それよりも今は本人に確認を取らねば。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「わ、私も行くわっ」

「いや、積もる話もあるだろうから、ここは男2人で話させてくれ」

「そ、そう…ね…」


奈々は悲しそうにしながらも折れてくれたので、これで心置きなく優と話せる。


優希は優の部屋の扉をノックする。


…………


何も返事がない。


まぁもういいか。


ここまで来たなら、強行突破だ。


優希は返事を待たずして扉を開け、ベッドに横たわったまま放心状態となっている優の肩を叩いた。


「おーい、優ー?」

「……ん、あっ⁉︎ど、どうした…?」

「どうしたはこっちのセリフだ。何かあったのか?」

「……」


優は顔を逸らして口を閉じ、しばし沈黙が訪れる。


その間、優は様々なことを考えていた。


今、この気持ちを打ち明けるべきか。


もしかしたらただの勘違いかもしれない。


………いや、それはないな。


そう、さっき結論付けたばかりじゃないか。


この気持ちにだけは、嘘をつきたくない。


この感情にだけは、人生を賭けて向き合いたい。


だから、家族には正直に全てを話す。


今まで1番大切だった人だからこそ。


「…ごめん。俺、大切な人ができてしまった」

「何で謝るんだよ。いいことじゃないか」

「俺は、その人のことを…家族と同じか、それ以上に大切だと思ってる」

「……そうか」


優希は、嬉しさと寂しさが混ざった声を発する。


「いいじゃないか。家族よりも大切な人。優が、そう決めたんだろ?なら、その気持ちに正直に、純粋に、突っ走って行くべきだ。俺がそうだったように」

「…父さん…」


この口ぶりから察するに、大切な人が好きな人であることはバレているな。


なら、正直に話そう。


「俺は…七海のことを好きになった…」

「…そっか。七海ちゃんか。なら、心配ないな」

「…どういうことだ?」


優希は嬉しそうに、そして感慨深い目をしながら語り始める。


「あの子は、いつも優のことを見ていたよ。優のことを、家族と同等に愛していたよ。それは多分、今も変わらない」


優は驚きと嬉しさの混ざった感情が心の中で渦を巻くが、優希は構うことなく続ける。


「七海ちゃんは、昔からずっと優に愛を注いでいてくれた。苦労していた時も、七海ちゃんがいたから何とか立ち直れていた。七海ちゃんがいたから、今の優がある。お前、七海ちゃんと再開してから少しずつ性格が明るくなってるの、気づいてないのか?」


…そうなのだろうか。


いや、親が言うのだから、きっとそうなのだろう。


もし七海の愛のおかげで今まで何とかやってこれたのだとしたら、俺はどれだけの愛を返せばいいのだろうか。


まだ、付き合ってすらいないのに。


せめて、何か恩返しを__


「優、お前は漢だ」

「あ、ああ…」

「漢が好きな女に何も返せないだなんて甘えたこと考えるなよ?返せるか返さないかではない。返すんだ。お前の気持ちをもってして」


なんて、心に刺さる言葉なのだろうか。


なんて、心を奮い立たせてくれる言葉なのだろうか。


そんなこと言われたら、黙っていられるわけないだろ。


「そう、だな。何が何でも、絶対に七海に恩を返す。いや、それだけじゃ足りない。七海の一生をかけても返しきれないぐらいの愛をあげよう」

「その調子だっ!」


親子2人は、固く握手を交わした。


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