147 気づいた方がいいんだが
「あれ?どこか行くの?」
「ああ、ちょっと用事を思い出してな。ちょっと行ってくるわ」
昼休みに七海とともに過ごしている時にふと朝の出来事を思い出し、優は教室から去って行く。
そのまま校舎裏まで足を運び、その人物の目の前に立った。
「で、渡したい物って何かな」
「それは…」
目の前に立つ女の子は慌てて身体の後ろに隠していた物を差し出してくる。
「コレッ…受け取ってくださいっ!」
「これは…」
「ほ、本命チョコです!!」
「……」
どうしてこんなことになってしまったのか。
あれは…朝学校に着いてすぐの出来事だった。
靴箱を開けて上履きを取り出そうとした時、いつもと違う感触があったので中を覗いてみると何か手紙のようなものがあった。
それを七海に見られないようにこっそり見てみると十中八九そういう感じの手紙だったが、これは完全にイタズラだと考えていた。
だが今の彼女の態度を見ていると、どうもイタズラには見えない。
今現在彼女は顔を赤くしながら頭を下げて手を差し出してきている。
…ん?
ちょっと待て。
今本命チョコって言っ__
「私、前からあなたのことが好きでしたっ!その、私と、付き合ってください!」
「……」
えっと、ちょっと一旦待ってくれ。
理解が追いつかない。
今まで告白された経験がないので、どう対処すればいいのか分からない。
…いや待て、告白された経験がない…?
今思い出してみれば、七海から滅茶苦茶告白されてないか…?
(あれ…もしかして…七海って俺のことが…)
頭がボーッとしてきてそのような考えに至るが、最後に何とか理性を取り戻し、頭を振ってその考えを振り払う。
(いやいやいや、流石にそれはないだろ)
ようやく冷静さを取り戻したところで、今の問題を解決しにかからねば。
優は差し出された手を握ることはなく、首を横に振ってしっかりとお断りする。
すると彼女は泣きそうな顔になりながら走って去って行った。
綺麗な包装に包まれた本命チョコを残して。
「どうすっかなこれ…」
フッた女の子のチョコを何も思わず食えるほど廃れてはいないので、チョコの処分法に頭を悩ませる。
教室に戻りながら頭を回転させ、とりあえず家に持ち帰って家族にどうにかしてもらうこと決めた。
その結論が浮かんだ頃に教室に辿り着き、自分のカバンにチョコを入れて七海のもとに戻る。
席に腰を下ろしてひと休みしていると、七海が不服そうに尋ねてきた。
「で、誰からチョコ貰ったの?」
「ブッ⁉︎な、なんでそうなるんだ?」
「普通に考えたらそうなるよ」
「そうなのか…?」
全く詳細は伝えていないはずなのに、なぜかバレてしまっていた。
まぁバレンタインの昼休みに教室を抜けてどこかに行くなんて大体がそういう理由なんだろうけども。
それでも鋭すぎる気がする。
これが愛の力だとでもいうのだろうか。
愛の力を発揮した七海は諦めることなく質問責めしてくる。
「で、誰に貰ったの?」
「えっと…多分4組の人」
「どういう関係?」
「特に何もないはずなんだが…」
「そうなんだ」
七海は明らかに怒っているような様子で、眉間にシワが寄ってるし口もだいぶ尖っている。
とりあえず謝っておこう。
チョコをくれた4組の人のためにも。
「えっと…なんかごめん」
「ううん、別に?優くんがモテるのは仕方ないことだし?色んな女の子からいっぱいチョコもらえばいいんじゃない?」
「…いや別にモテてるわけじゃ__」
「私はいいと思うよ?心に決めた人がいても他の女の子を受け入れても?うん、そういう時代だからね?」
「いやどういう時代だよ」
早口で理解不能なことを言われて困惑するが、最後の方だけ理解できたのでとりあえずツッコんでおいた。
そしてだんだん七海の言葉を理解していき、優はあることに気づいた。
(なんかめっちゃ恥ずかしいこと口走ってないか⁉︎)
途中から七海が心に決めた相手である前提で話が進んでるし。
七海がそのことに気づくのは次の授業が始まった頃だった。




