146 貰えて良かったんだが
訪れた勝負の日。
2月14日、校内は異様な空気に包まれていた。
男子生徒はそわそわして落ち着きのない様子であちこちを歩き回っている。
そしてここにも例外なく緊張してウロウロしている男子生徒が1人。
「今年こそはっ!今年こそはっ!!!」
優の友人である泰明が祈るように手を合わせて教室の周りをぶらぶら歩いている。
さっきまで話していた優と柊太はその姿を疑問そうに見つめていた。
「今年こそはってことは、今まで貰ったことないのかな?」
「そうかもな。でも、普通に生きてきてそんなことあるか?普通義理でも誰かから貰ったことあるだろ」
「確かに」
2人に全く悪意のない疑問の目を向けられ、一瞬でそれを察知して2人に近づく。
「今、何の話してた?」
「ん?ああ、泰明はチョコ貰ったことないのかなって」
「何だとテメェェェェ!!!!」
何か地雷を踏んでしまったようで、泰明が2人を威嚇するように大きく吠える。
「貰ったことなかったら何なんだよ⁉︎悪いのか⁉︎死んだ方がいいのか⁉︎」
「いやそこまで言ってねぇよ…」
「まぁまぁ落ち着きなよ。貰ったことないのは仕方ないって。多分今年貰えるから、元気だしな」
「そうだぞ。"多分"貰えるから元気出せって」
「そこ強調すんな!全然励ましになってねぇよ!!!」
毎年チョコ貰ってる組の連携プレーにより、泰明の表情はさらに赤くなっていく。
「ったくいいよな貰える相手がいる奴らは!そんな余裕そうな顔ができてよぉ!!」
「??」
泰明の怒りを混ぜたその言葉に、優は疑問を抱く。
「えと…柊太は彼女がいるから貰えるのは分かる。でも俺にそんな相手はいないぞ?」
優は普通にそう思っているのだが、側から見ればこの上なく白々しいヤツだった。
なので当然2人からツッコミを入れられる。
「優、それは無理あるよ」
「は?」
「いやお前には桜庭さんという最強の彼女がいるだろぉが羨ましいな!!」
泰明は羨ましさを隠さずさらに続ける。
「しかも超絶美人の妹もいるなんて…クソッ!!今すぐそこ変われ!!」
羨ましさのあまり中身を入れ替える提案をされるが、したくないし現実的にできないので却下する。
すると泰明はガクンと膝から崩れ落ち、右手で拳を使って思い切り地面を叩き出した。
「クソぉぉぉ!!!俺の最後の希望がぁぁぁぁ!!!」
「いや最後の希望現実味無さすぎだろ。どこに希望あったんだよ」
「あのー…聖澤くん?ちょっといいかな…?」
ぐすんとわざとらしく泣きながら地面をサンドバッグにしている泰明に、とある女子が肩を叩いてきた。
「これ、よかったら貰ってくれない…かな…?」
「え、これって…」
希望に満ちた表情で立ち上がり、期待した表情を作ってそれが何かを訊く。
するとその女子は少し恥ずかしそうに片手で顔を隠しながら少し強めにそれを差し出してきた。
「チョ、チョコだよっ!!ほら、受け取って!!」
「えっ⁉︎あ、ああ」
思い切り泰明の胸に押し付けた後、その女子は教室から去って行った。
泰明はその後ろ姿をじっくり見つめた後、泣きそうになりながら机に突っ伏した。
優はすぐ隣に行き、肩を叩きながら優しい言葉をかけてやる。
「良かったな。人生初チョコ」
「うぅ…あぁ…」
友人からの優しい言葉に、目元が熱くなるのを感じたのだった。




