144 終わりが見えないっ!
「や、やっとできた…」
あれから2時間の激闘の末、ようやく璃々の試作品は完成した。
でも、まだ試作品だよ?
しかも1作目。
これから改良を重ねて完成なのに、毎回こんな感じであることを想像すると、気が遠くなるというか最早脳がクラッシュしそうになる。
そんな絶望的な未来のことは考えないようにし、璃々に一から千まで教えていた七海と有咲は疲弊してソファにもたれかかる。
そんな2人に璃々はとびきりの感謝の気持ちを伝えようと思うが、それさえも彼女らを疲れさせてしまうかと思い、控えめに頭を下げるだけにする。
「2人ともありがとう…。こんな私に付き合ってくれて…。疲れちゃったでしょ…?」
「ううん、教え甲斐があったから私も楽しかったよ」
「七海さんの言う通りです。確かに疲れはしましたけど、私たちは楽しくて教えてただけですので、あまり謝らないでください」
2人のの真剣な優しい言葉に、璃々は心を打たれる。
「ありがとう…2人とも…」
涙が出そうになりながら感謝の気持ちを伝え、2人の隣に腰をかける。
「ま、本当に疲れたのは事実なんだけどね」
「うぅ…それはごめん…」
「冗談だよっ」
七海は真実を隠しながらゆったりと全身をソファに預ける。
目を瞑って疲れを癒していると、「ニャー」という可愛い音声が耳に入ってくる。
七海は一瞬でそれに反応し、音がした方向を見てみると、大画面のテレビに可愛い猫の姿があった。
「おお〜可愛いですね」
どうやらこの番組をつけたのは有咲らしく、目を輝かせながらテレビに夢中になっている。
当然可愛い物好きの七海もテレビに釘付けになる。
「キャー!!今の可愛いっ!!」
「あっ逃げちゃいました!」
「あはは…2人とも楽しそうだね…」
先程まで疲れた様子だったのに猫の映像を見てはしゃぎまくっている2人に苦笑いを向けながらチョコが固まるまで時を過ごした。
夕方になる頃になると、七海はふと思い出したかのように手を叩きながら立ち上がった。
「そろそろチョコできてるかな?ちょっと見てくるね」
七海は冷蔵庫を覗き、ちょっと触ってチョコが固まっていることを確認し、皿に乗せて食卓の上に持っていく。
全員で見た目の確認をした後、1人ずつ切り分けて試食する。
「んっ!!これ美味しい!」
「流石先生ですね。コクがあってとても濃厚な味わいです」
「ふふっ、ありがとうっ」
やはり七海のチョコの完成度は高く、そこら辺の市販品よりも高いクオリティになっている。
だが七海は満足しておらず、改良の余地ありと言った表情で考え事を始める。
「…私たちには分からない悩みですね」
「だね…レベルが高すぎるよねぇ…」
このクオリティで悩むんだったら、自分たちは何に悩めばいいのか分からなくなる。
そういった意見を2人は持ちながら、もうひとつのチョコを食べ始める。
「おぉ〜これすごく美味しいよ!」
「そうですか?ありがとうございます。ですがやはりまだ改良の余地がありそうです…」
「そうなんだ…」
(もしかして私だけ完全に取り残されてる?)
さっきまで仲間だと思ってたのに。
全然レベルの高い悩み持ってるじゃん。
璃々は下に取り残されている自分に落胆しながら最後の自分のチョコを見つめる。
だがそれよりも散々苦労した2人の視線が強く璃々の試作品に刺さる。
「じゃあ…食べてみよっか…」
「そうですね…いただきます…」
作った本人よりも緊張している2人は震えながらチョコを口に運ぶ。
2人が同時にチョコを噛み、口の中に広がってきたのは……っ!!
((苦っ__!!))
2人の戦いは、終わりが見えなくなった。




