141 次元が低すぎるんだが
翌日の朝、優はいつも通りに目覚め、いつも通りに学校に行く支度をしていた。
昨日まで不調だった有咲もある程度回復し、今日からともに学校に行く予定だ。
2人は朝食を済ませ、最後の支度をしてから玄関の扉を開いた。
「あ、おはよう2人とも」
「おはよう」
「おはようございます」
扉を開いてすぐ前にはいつも通り七海がいて、嬉しそうな笑顔を向けながら近づいてくる。
「やっと一緒に登校できるねっ!私寂しかったんだよー?」
「それはごめん」
「まあ2人の体調が良くなったのならいいんだけどね」
そんな会話をしながら3人は登校し、校内に入ったところで有咲と別れて教室に向かった。
「あ、2人ともおはよー。如月くん体調はよくなったの?」
教室に入ってすぐに璃々り話しかけられ、元気だと言うことを伝えると嬉しそうな笑顔を浮かべてきた。
「そうなの!よかったぁ」
「…」
「如月くん…?どうかした…?」
「ん?いや…」
璃々の喜びぶりを見て、優は違和感を覚えていた。
正直そこまで心配されるほど仲が良かった記憶がない。
いや、単純に体調不良のクラスメイトを心配していただけだろうか。
そういう人だしな。
優が少し思考を巡らせていると、隣の七海がニヤニヤしながら口を開き始めた。
「ふふん、優くんの考えていることはよ〜くわかるよー。その疑問に答えてあげましょう〜」
「いや誰だよ」
「璃々ちゃんにとって優くんは友達なんだよ?しかも割としたいし方のね」
「へ?」
少し想定外すぎて腑抜けた声が出てしまった。
だが璃々はそんなこと気にもせずに七海の発言について話し始める。
「まぁ、私はそう思っているんだけど…如月くんはどうかな…?」
恥ずかしそうに訊いてきて少し困惑するが、それを表には出さずに素早く返答する。
「そうだな…。俺たちは、友達だな。うん、そう思う」
「よしっ!友情成立だね!」
「いやさっきからあんたは誰」
七海はツッコまれても完全に無視して話し続ける。
「で、話を戻すと、璃々ちゃんは友達が心配だった。それだけだよねっ!」
「うん、そうだけど…」
「どう?疑問は解けた?」
「ん、まぁ…」
なんか七海のやりたいようにやられた気がするが、とりあえずのところは良しとすか…いや、よくなさそうな人がいるな。
璃々が何か言いたそうな顔をしている。
これは、デカいのが来るぞ。
直感的にそう思い、優は身構える。
そして、璃々の口が開かれた。
「でも結局1番心配してたのは七海ちゃんだよね?途中から泣きそうになりながら『妻の私が看病しないと…』とか呟いてたよね?」
あ、想像よりエグいの来たな。
これは多分、相当効いてるな。
七海の方を向くとやはり顔を赤くしていて、今にも爆発してしまいそうなほど頬を膨らませている。
「そ、それは言っちゃダメだよ!!確かに私が1番心配してたけど!そこまで詳しく言っちゃダメなの!!」
まるで子供のように駄々をこねる。
うーん、何だこの争い。
あまりにも低次元すぎる。
このままではこの場にいるこちらも低次元扱いされてしまう。
流石にそれは不本意なので優は2人を止めにかかる。
「まぁとにかく、2人とも友達の俺を心配してくれてたってことだよな?」
「うん、そうだけど」
「ありがとな。こんな俺のことを心配してくれて。もう大丈夫だから、これからも仲良くしていこうぜ」
「う、うん…」
何だか釈然としないまま話を強制終了させられ、七海は少し心の中にモヤモヤが残るが、今それを解消している暇はない。
「全員席に着けー」
担任の先生がチャイムよりも早めに扉を開けて入ってきたのだ。
仕方なく七海は席に腰を下ろし、少しの間優の顔を見つめる。
(次は絶対に私が看病するんだからっ…!)
もし優が熱を出しても必ず自分がそばにいようと心に誓いながら目線を前に戻した。




